約 1,893,837 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8302.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― トリステインの王宮は、ブルドンネ街の突きあたりにあった。 王宮の前には、当直の魔法衛士隊の隊員達が、幻獣に跨り闊歩している。 戦争が近いと言う噂が、二、三日前から街に流れ始めていた。隣国アルビオンを制圧した貴族派『レコン・キスタ』が、トリステインに侵攻してくると言う噂だった。 よって、城の警備を預かる衛士隊の空気は、ピリピリしたものとなっている。 王宮の上空は幻獣、船問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックも当然激しくなった。 普段ならなんなく通される仕立屋や、出入りの菓子職人までが門の前で呼びとめられ、 身体検査の上、ディティクトマジックでメイジが化けていないか、『魅了』の魔法で何者かに操られていないか、など、厳重な検査を受けた。 そんなときだったから、王宮の上に一匹の風竜が現れた時、警備の魔法衛士隊の隊員達は、色めきあった。 この日の警備を担当していたマンティコア隊の隊員達は、マンティコアに騎乗し、王宮の上空に現れた風竜目がけ、一斉に飛びあがる。 風竜の上には、四人の人影があった。しかも風竜は、巨大モグラを口にくわえている。 魔法衛士隊の隊員達は、ここが現在飛行禁止区域であることを、大声で告げたが、警告を無視して、風竜は王宮の中庭へと着陸した。 風竜に跨っていたのは、桃色がかったブロンドの美少女に、燃える赤毛の長身の女、そして、金髪の少年、眼鏡をかけた小さな女の子だった。 マンティコアに跨った隊員達は、着陸した風竜を取り囲んだ。腰からレイピアの様な形状をした杖を引き抜き、一斉に掲げ、いつでも呪文を詠唱できるような態勢を取る。 ごつい体にいかめしい髭面の隊長が、大声で怪しい侵入者達に命令した。 「杖を捨てろ!」 一瞬、侵入者たちはむっとした表情を浮かべたが、彼らに対して青い髪の小柄な少女が首を振って言った。 「宮廷」 一行は仕方ないとばかりにその言葉に頷き、命令されたとおりに、杖を地面に捨てた。 「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ、ふれを知らんのか?」 一人の、桃色がかったブロンド髪の少女が、とんっと鮮やかに竜の上から飛び降りた。 「わたしはラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しい者ではありません、姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」 ここまでの間に多少落ち着きを取り戻したのか、ルイズははっきりと名乗った。 隊長は口髭をひねって、少女を見つめた。ラ・ヴァリエール公爵夫妻なら知っている、高名な貴族だ。 隊長は掲げた杖を下ろした。 「ラ・ヴァリエール公爵さまの三女とな」 「いかにも」 「……なるほど、みれば確かに、目元が母君そっくりだ。して、要件を伺おうか」 「それは言えません、密命なのです」 「では殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件も尋ねずに取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」 困った顔で隊長が言った、そのときである。 宮殿の入口から、鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。 中庭の真ん中で魔法衛士隊に囲まれたルイズの姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。 「ルイズ!」 駆け寄ってくるアンリエッタの姿を見て、今までどこか元気のなかったルイズの顔に、ようやく笑顔が戻る。 「姫さま!」 二人は、一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしと抱き合った。 「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ、ルイズ・フランソワーズ……」 「姫さま……」 ルイズの目からぽろぽろと涙がこぼれる。 「件の手紙は、無事、この通りでございます」 ルイズはシャツの胸ポケットから、そっと、手紙を見せた。 アンリエッタは大きく頷いて、ルイズの手を堅く握りしめた。 「やはりあなたは、わたくしの一番のおともだちですわ」 「もったいないお言葉です」 しかし、一行の中にウェールズの姿が見えない事に気付いたアンリエッタは、顔を曇らせる。 「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね」 ルイズは目を瞑って神妙に頷いた。 「……して、あなたの使い魔とワルド子爵は? 姿が見えませんが。別行動を取っているのかしら? それとも……まさか、敵の手にかかって……? そんな、あの子爵に限ってそんなはずは……」 ルイズの表情が曇る。俯き絞り出す様にしてアンリエッタに告げた。 「姫さま……ワルドは……裏切り者だったんです」 「裏切り者?」 アンリエッタの顔に、影が差した。 そして、興味深そうに、そんな自分達を見つめている魔法衛士隊の面々に気が付き、アンリエッタは説明した。 「彼らはわたくしの客人ですわ。隊長殿」 「さようですか」 アンリエッタの言葉で隊長は納得するとあっけなく杖をおさめ、隊員達を促し、再び持ち場へと去って行った。 アンリエッタは再びルイズに向き直る。 「道中、なにがあったのですか? ……とにかく、わたくしの部屋でお話ししましょう。他の方々は別室を用意します。そこでお休みになってください」 キュルケとタバサ、ギーシュを謁見待合室に残し、アンリエッタはルイズを自分の居室に入れた。 小さいながらも、精巧なレリーフがかたどられた椅子に腰かけ、アンリエッタは机に肘をついた。 ルイズはアンリエッタにことの次第を説明した。 道中、キュルケたちと合流したこと。 アルビオンに向かう船に乗ったら、空賊に襲われたこと。 その空賊が、ウェールズ皇太子であったこと。 ウェールズ皇太子に亡命を勧めたが、断られたこと。 そして……、ワルドと結婚式をあげるために、避難船にはのらなかったこと。 結婚式の最中、ワルドが豹変し……、ウェールズを殺害し、ルイズが預かった手紙を奪い取ろうとしたこと。 使い魔であるエツィオが殺されそうになっていた自分を救い、脱出の間際、アルビオンに単身残ったであろうということ……。 しかし、このように手紙は取り戻してきた。『レコン・キスタ』の野望……、 ハルケギニアを統一し、エルフの手から聖地を取り戻すという、大それた野望はつまずいたのだ。 しかし……、無事、トリステインの命綱である、ゲルマニアとの同盟が守られたというのに、アンリエッタは悲嘆にくれた。 「あの子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるだなんて……」 アンリエッタは、かつて自分がウェールズにしたためた手紙を見つめながら、はらはらと涙を落した。 「姫さま……」 ルイズも、同じように涙を落とし、そっとアンリエッタの手を握った。 「わたくしが、ウェールズさまのお命を奪ったようなものだわ。裏切り者を使者に選ぶだなんて、わたくしはなんということを……」 「わたしは、皇太子に亡命を勧めました。ですが最後まで首を縦に振ろうとはしませんでした、もとより自分は真っ先に死ぬつもりだと。……姫さまのせいではありませんわ」 「……あの方は、わたくしの手紙を最後まで読んでくださったのかしら? ねえ、ルイズ」 ルイズは頷いた。 「はい、姫さま。ウェールズ皇太子は姫殿下の手紙をお読みになりました」 「ならば、ウェールズさまはわたくしを愛してはおられなかったのですね」 アンリエッタは寂しげに首を振った。 「ではやはり……皇太子に亡命をお勧めになったのですね?」 悲しげに手紙を見つめたまま、アンリエッタは頷いた。 ルイズはウェールズの言葉を思い出した。彼は頑なに「アンリエッタは私に亡命など勧めてはいない」と、否定した。 やはりそれは、ルイズが思った通り、嘘であったのだ。 「ええ、死んでほしくなかったんだもの、愛していたのよ。わたくし」 それからアンリエッタは、呆けたように呟いた。 「わたくしより、名誉の方が大事だったのかしら」 ルイズは何も言えずに、俯いた。 エツィオは愛しているからこそ、彼は死を選んだ。と言っていた。 でも、自分にはその言葉の意味が、まだわからない。それゆえ、アンリエッタになんて声をかけたらいいか、わからなかった。 「残されたわたくしは……どうすればよいのかしら……」 「姫さま……」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 アンリエッタは、そんなルイズに気がついたのか、立ち上がりルイズの手を握った。 「ごめんなさい、ルイズ、あなたも……辛い思いをしていたのよね。なのにわたくしったら……」 それからアンリエッタはにっこりと笑った。 「わたくしの婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれたのです。我が国はゲルマニアと無事同盟を結ぶことができるでしょう。 そうすれば、簡単にアルビオンも攻めてくるわけにはいきません、危機は去ったのです、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは努めて明るい声を出して言った。 ルイズはポケットから、アンリエッタに貰った水のルビーを取りだした。 「姫さま、これ、お返しします」 アンリエッタは首を振った。 「それはあなたが持っていなさいな。せめてものお礼です」 「こんな由緒ある品を頂くわけにはいきませんわ」 「忠誠には報いるところがなければなりません。いいから、とっておきなさいな」 ルイズは頷くと、それを指にはめた。 「この度の働き、本当にあなたには感謝してもしきれないわ、あなたのおかげでトリステインは救われました。ルイズ・フランソワーズ、本当に、ご苦労様でした」 王宮から、魔法学院に向かう雲の上、ルイズは沈痛な面持ちのまま、ずっと黙り込んでしまっていた。 そんなルイズの様子にキュルケもギーシュも、事情を察しているだけになんと声をかけたらよいのかわからず、なんだか気まずい思いをしていた。 ルイズは膝を抱えながらアンリエッタの言葉を思い出す。 『残された私はどうすればいい?』 悲しそうに呟いたアンリエッタの気持ちが、なぜが痛いほど理解できる。 事実、今、自分はどうすればいいのか、まったく考えることができない。 ここにエツィオがいない、たったそれだけのことなのに、身悶えするような不安が、ルイズの全身を苛んだ。 「エツィオ……わたしは、どうすればいいの?」 ここにはいない使い魔に問うも、誰も答えてはくれない。 ルイズはぎゅっと膝を抱き、小さく呟くと静かに啜り泣いた。 戦が終わった二日後……かつては名城と謳われていたニューカッスルの城は、惨状を呈していた。 城壁はたび重なる砲撃と魔法攻撃で、瓦礫の山となり、無残に焼け焦げた死体がそこかしこに転がっている。 照りつける太陽の下、瓦礫と死体が入り混じる中、長身の貴族が戦跡を検分していた。 羽のついた帽子に、アルビオンでは珍しいトリステインの魔法衛士隊の制服。 ワルドであった。 彼の横には、フードを目深に被った女のメイジ。土くれのフーケこと、マチルダであった。 彼女は、ラ・ロシェールから船に乗り、アルビオンに渡ってきたのである。 昨晩、アルビオンの首都、ロンディニウムの酒場でワルドと合流して、このニューカッスルの戦場跡へとやってきた。 周囲では、『レコン・キスタ』の兵士たちが、財宝漁りにいそしんでいる。 宝物庫と思わしき辺りでは、金貨探しの一団が歓声をあげていた。 長槍を担いだ傭兵の一団が、元は綺麗な中庭だった瓦礫の山に転がる死体から装飾品や武器を奪い取り、魔法の杖を見つけては大声ではしゃいでいる。 マチルダはその様子を見て、苦々しげに舌打ちした。 そんなマチルダの表情に気づき、ワルドは薄い笑いを浮かべた。 「どうした土くれよ。貴様もあの連中のように、財宝を漁らんのか? 貴族から宝を奪い取るのは貴様の仕事ではないのか?」 「私とあんな連中を一緒にしないで欲しいわね。死体から略奪するのは、趣味じゃないもの」 「盗賊には盗賊の美学があるということか」 ワルドは笑った。 「据え膳には興味がないの、私は大切なお宝を盗まれて、あたふたする貴族の顔を見るのが好きなのよ、こいつらは……」 マチルダは、ちらっと王軍のメイジの死体を横目で眺めた。 「もう慌てることもできないわね」 「アルビオンの王党派は貴様の仇だろうが、王家の名のもとに、貴様の家名は辱められたのではないのか?」 ワルドが嘯くように言うと、マチルダは顔をしかめた。 「そうね、そうなんだけどね」 それから、ワルドの方を向いた。二の腕の中ほどから左腕が切断されている。主を無くした制服の袖がひらひらと風に揺れている。 続けてワルドの顔を見る、エツィオに抉られた左眼には眼帯をつけていた。 「あんたも随分苦戦したみたいね」 ワルドは変わらぬ様子で呟いた。 「腕一本と左眼でウェールズを討ちとれたと考えれば、安い取引だったと言わねばならんだろう」 「たいした奴だね、あの使い魔の男は。風のスクウェアのあんたをこうまでしちまうなんてね」 「平民とは言え、流石は『アサシン』と言わねばなるまいな」 「でもまあ、この城にいた以上は、生き残れはしないだろうね」 マチルダはポケットに手を入れ、小さく笑う。ワルドは冷たい微笑を浮かべた。 「ガンダールヴであろうと、アサシンであろうと、所詮は人、所詮は平民だ。攻城の隊からは、あの後すぐに礼拝堂に突入したとあった。 ここで主人と共になぶり殺しにされたのだろうな」 マチルダは小さく鼻で笑った。そう思いたければそう思っていればいい。どの道自分には、この男がどうなろうと関係のない話だ。 「で、あんたは何を探しているんだっけ?」 「アンリエッタの手紙だ、この辺にあるはずだ」 ワルドは、杖で地面を差した。そこは、二日前まで礼拝堂があった場所である。 ワルドとルイズが結婚式を挙げようとした場所であり、ウェールズが命を絶たれた場所であった。 しかし、今はみるも無残な瓦礫の山と化している。 「ふーん、あのラ・ヴァリエールの小娘……、あんたの婚約者のポケットにその手紙が入っているんだっけ?」 真相は知っているが、あえて問いかける。 「そうだ」 「見殺し? 愛してなかったの?」 「愛しているだとか、愛していないだとか、そんな感情は既に忘れたよ」 抑揚を押さえた声でワルドは言った。 呪文を詠唱し、杖を振る。小型の竜巻が現れ、瓦礫を吹き飛ばす。徐々に礼拝堂の床が見えてきた。 始祖ブリミルの像と、椅子の間に挟まる形で、ウェールズの亡骸があった。 椅子と像の間に挟まっていたおかげで、亡骸はつぶれてはいなかった。ただその背中にはあるはずのマントをしていなかった。 「あらら、懐かしのウェールズさまじゃない」 元はアルビオンの貴族であったマチルダは、ウェールズの顔を覚えていた。 ワルドは、自分が殺したウェールズの死体には目もくれず、ルイズとエツィオの死体を探していた。 しかし……どこにも死体は見つからない。 「おかしい……どこにある……」 ワルドは小さく呟き、注意深く辺りを探す。 まき起こった竜巻が、床に転がっていた絵画を吹き飛ばす。 すると、その下の床に、ぽっかりと空いた直径一メイル程の穴を見つけた。 ワルドは顔をしかめ、穴の中を覗きこむ。ギーシュの使い魔が掘った穴だが、ワルドはそれを知らない。 ワルドの頬を、吹きぬけてきた冷たい風がなぶる。風が入ってくるということは、空に通じているに違いない。 「逃げられたか……!」 ワルドの顔が、怒りに歪み、苦々しい声で呟いたそのときだった。 遠くから二人に声がかかった。快活な、澄んだ声だった。 「子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね! アンリエッタがウェールズにしたためたという、その……なんだ、ラヴレターは。 ゲルマニアとトリステインの同盟を阻む救世主は見つかったかね!」 ワルドは首を振って、現れた男に応えた。 やってきた男は、年のころは三十代半ば。 球帽をかぶり、緑色のローブとマントを身につけている。 一見すると聖職者のような格好に見えるが、物腰は軽く、軍人のようであった。 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子のすそから、カールした金髪が覗いている。 「閣下。どうやら、手紙は穴からすり抜けたようです。私のミスです、申し訳ありません。なんなりと罰をお与えください」 ワルドは地面に膝を突き、頭を垂れた。 閣下と呼ばれた男は、にかっと人懐こい笑顔を浮かべ、ワルドに近寄ると、その肩を叩いた。 「何を言うか! 子爵! きみは目覚ましい活躍をしたのだよ。敵軍の勇将を一人で討ち取る働きをして見せたのだ! ほら、そこで眠っているのは、あの親愛なるウェールズ皇太子じゃないかね? 誇りたまえ! きみが倒したのだ! 彼は随分余を嫌っていたが……、こうしてみると不思議だ、奇妙な友情すら感じるよ。ああそうだった、死んでしまえば誰もがともだちだったな」 ワルドは、最後に込められた皮肉に気付き、僅かに頬を歪めた。それからすぐに真顔に戻り、自分の上官に再び謝罪を繰り返した。 「ですが、閣下の欲しがっておられた、アンリエッタの手紙を手に入れる任務に失敗いたしました。私は閣下のご期待に添えることができませんでした」 「気にするな。同盟阻止より、確実にウェールズを仕留めることが大事だ。理想は一歩づつ、着実に進むことにより達成される」 それから、緑のローブの男はマチルダの方を向いた。 「子爵、そこの綺麗な女性を余に紹介してくれたまえ。未だ僧籍に身を置く余からは、女性に声をかけづらいからね」 マチルダは、男を見つめた。ワルドが頭を下げているところを見ると、ずいぶんと偉いさんなのだろう。 だがしかし、気に入らない。妙なオーラを放っている。禍々しい雰囲気が、ローブの隙間から漂ってくる。 ワルドが立ち上がり、男にマチルダを紹介した。 「彼女が、かつてトリステインの貴族たちを震え上がらせた土くれのフーケにございます、閣下」 「おお! 噂はかねがね存じておるよ! お会いできて光栄だ、ミス・サウスゴータ」 かつて捨てた貴族の名を口にされ、マチルダは微笑んだ。 「ワルドに、私のその名前を教えたのはあなたなのね?」 「そうとも。余はアルビオンの貴族のことなら全て知っておる。系図、紋章、土地の所有権……、 管区を預かる司教時代にすべて諳んじた。おお、ご挨拶が遅れたね」 男は目を見開いて、胸に手を置いた。 「『レコン・キスタ』総司令官を勤めさせていただいておる、オリヴァー・クロムウェルだ。 元はこの通り、一介の司教に過ぎぬのだがね、しかしながら、貴族会議の厳正なる投票により、総司令官に任じられたからには、 微力を尽くさねばならぬ。始祖ブリミルに仕える身でありながら、『余』などという不遜な言葉を使うことを許してくれたまえよ? 微力の行使には、信用と権威が必要なのだ」 「閣下は既にただの総司令官ではありません、今ではアルビオンの……」 「皇帝だ、子爵」 クロムウェルは笑った。しかし、目の色は変わらない。 「確かにトリステインとゲルマニアの同盟阻止は余の願うところだ。しかし、我々にはもっと大切なものがある。何だかわかるかね?子爵」 「閣下の深いお考えは、凡人の私にははかりかねます」 クロムウェルは、かっと目を見開いた。それから両手を振り上げて、大げさな身振りで演説を開始した。 「『結束』だ! 鉄の『結束』だ! ハルケギニアは、我々選ばれた貴族たちによって結束し、 聖地を忌まわしきエルフどもから取り返す! それが始祖ブリミルにより余に与えられし使命なのだ! 『結束』には、何より信用が大切だ。だから余は子爵、君を信用する。些細な失敗を責めはしない」 ワルドは深々と頭を下げた。 「その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ」 マチルダの眉が、ぴくんと跳ねた。力? 一体どんな力だというのだろうか? 「閣下、始祖が閣下にお与えになった力とは何でございましょう? よければお聞かせ願えませんこと?」 自分の演説に酔うような口調で、クロムウェルは続けた。 「魔法の四大系統はご存知かね? ミス・サウスゴータ」 マチルダは頷いた。そんなことは子供でも知っている。火、風、水、土の四つである。 「だが……魔法にはもう一つの系統が存在する。始祖ブリミルが用いし、零番目の系統だ、真実、起源、万物の祖となる系統だ」 「零番目の系統……、虚無?」 マチルダは青ざめた。今は失われた系統だ。どんな魔法だったのかすら、伝説の闇の向こうに消えている。 この男はその零番目の系統を知っていると言うのだろうか? 「余はその力を、始祖ブリミルより授かったのだ。だからこそ、貴族議会の諸君は、余をハルケギニアの皇帝にすることを選んだのだ」 クロムウェルは、ウェールズの死体を指さした。 「ワルド君、ウェールズ皇太子を、是非とも余の友人に加えたいのだが、彼はなるほど、余の最大の敵であったわけだが、 だからこそ、死して後はよき友人になれると思う……異存はあるかね?」 ワルドは首を振る。 「閣下の決定に異論が挟めようはずもございません」 クロムウェルはにっこりと笑った、 「では、ミス・サウスゴータ。貴女に『虚無』の系統をお見せしよう」 マチルダは、息をのんでクロムウェルの挙動を見守った。クロムウェルは腰にさした小さい杖を引き抜いた。 低い、小さな詠唱がクロムウェルの口から漏れる。マチルダがかつて聞いたことのない言葉であった。 詠唱が完成すると、クロムウェルは優しくウェールズの死体に杖を振り下ろす。 すると……何ということであろう。冷たい躯であったウェールズの瞳がぱちりと開いた。マチルダの背筋が凍った。 ウェールズはゆっくりと身を起こした。青白かった顔が、みるみるうちに生前の面影を取り戻してゆく。 まるで萎れた花が水を吸うように、ウェールズの体に生気がみなぎってゆく。 「おはよう、皇太子」 クロムウェルが呟く。 蘇ったウェールズは、クロムウェルに微笑み返した。 「久しぶりだね、大司教」 「失礼ながら、今では皇帝なのだ。親愛なる皇太子」 「そうだった。これは失礼した、閣下」 ウェールズは膝をついて、臣下の礼をとった。 「君を余の親衛隊に加えようと思うのだが、ウェールズ君」 「喜んで」 「なら、友人達に引き合わせてあげよう」 クロムウェルが歩き出し、その後ろを、ウェールズが生前と変わらぬ仕草で歩いてゆく。 マチルダは呆然として、その様子を見つめていた。クロムウェルが、思い出したかのように立ち止まり、振り向いて言った。 「おおそうだ、ワルド君、実はきみに折り入って頼みがあったのだ」 ワルドは会釈した。 「なんなりと」 「なに、そんな難しい話ではない、三日後にスカボローで『残党』の公開処刑を行うのだ、 きみにはそこで、我々『レコン・キスタ』の英雄として、そして余の代理として、執行に立ち会ってもらいたい」 「私が、ですか?」 「そうだ、これにより民衆はアルビオンの真の統治者が誰なのか理解することができるだろう。本来ならば、余直々に演説すべきなのだが……、 生憎、余は多忙でね、故にこの戦の功労者であり……余の右腕たるきみに頼みたいのだ、引き受けてくれるかね?」 「そのような大役を賜れるとは……身に余る光栄でございます、閣下」 「これはアルビオン国内の更なる結束につながる、大事な任務だ、よろしく頼んだぞ」 クロムウェルは満足そうに頷き、言葉を続ける。 「……ワルド君、同盟は結ばれてもかまわない。この程度なら余の計画に変更はない。 外交には二種類あってな、杖とパンだ、とりあえずトリステインとゲルマニアには暖かいパンをくれてやろう」 「御意」 「トリステインは、なんとしてでも余の版図に加えねばならぬ。あの王室には、 『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。聖地におもむく際には、是非とも携えたいものだ」 そう言って満足げに頷くと、クロムウェルは去っていった。 「あれが……虚無? 死者が蘇るなんて……そんな馬鹿な……」 クロムウェルとウェールズが視界の外に去った後、マチルダはやっとの思いで口を開いた。 ワルドが呟いた。 「虚無は生命を操る系統……閣下が言うには、そう言うことらしい。俺にも信じられんが、目の当たりにすると信じざるを得まいな」 マチルダは震える声で、ワルドに訊ねた。 「もしかして、あんたもさっきみたいに、虚無の魔法とやらで動いているんじゃないだろうね?」 ワルドは笑った。 「俺か? 俺は違うよ。幸か不幸か、この命は生まれつきのものさ」 それからワルドは空を仰いだ。 「しかしながら……、あまたの命が聖地に光臨せし始祖によって与えられているとするならば……。 すべての人間は『虚無』の系統で動いているとは言えないかな?」 マチルダはぎょっとして、胸を押さえた。心臓の鼓動を確かめる。生きているという実感が急に欲しくなったのだ。 「そんな顔をするな、これは俺の想像だ、妄想と言ってもよい」 ほっと、マチルダはため息をついた。それからワルドを恨めしげに見つめる。 「驚かせないでよ」 ワルドは右手で、なくなった左腕の部分を撫でながら言った。 「でもな、俺はそれを確かめたいのだ。妄想に過ぎぬのか、それとも現実なのか。きっと聖地にその答えが眠っていると、俺は思うのだよ」 ワルドと別れ、マチルダは城の外へと出る、そしてあたりにワルドがいないことを確認すると。 ポケットから一枚の紙片を取り出した、それはつい昨日、以前エツィオに送った伝書鳩から受け取った手紙であった。 「ふん、なかなか鳩が帰ってこないと思ってたら……こういうことかい」 マチルダは小さくぼやきながら小さな紙片を広げる。 どうやらエツィオは、アルビオンで活動することも念頭に置いていたらしい、最初の手紙を受け取って以来、 常に連絡が取れるように、ずっと鳩を持ち歩いていたようだ。 相変わらず抜け目のない男だ、そう考えながら紙片に目を通す。 そこにはやはりというべきか、合流場所とそれからの指示が記されている。 「はいはい……わかったよ」 マチルダは口元に小さく笑みを浮かべると、紙片を空に放りあげ、手に持った杖を振り、呪文を唱える。 『発火』の呪文により、紙片が一瞬にして燃え上がり、灰となる。 証拠を跡形もなく消すと、辺りを見渡し、尾行がいないことを念入りに確認し、ニューカッスルを後にした。 馬を走らせること半日、マチルダは馬を止め、とある建物を見上げる、そこは街道沿いに設けられた小さな安酒場だった。 どうやらここがエツィオに指定された合流場所のようだ、馬留めに馬をつなぎ、店の中に入る。 中を見渡すと、寂れた店内には、数人の客がテーブルにつき、思い思いに酒を飲んでいた。 店の奥には2階へと続く階段が伸びている、どうやらこの酒場は宿屋も経営しているらしい。 マチルダはカウンターに佇む店のマスターの元へと歩いてゆく。 「ご注文は?」 「『学者』が泊っているって聞いたんだけど、そいつはどこに?」 「ああ、2階の部屋にご案内するように仰せつかってまさぁ、……こちらが鍵になります」 「ありがと」 差しだされた鍵を受け取ると、マチルダはエツィオが待つであろう2階へ上っていった。 「エツィオ? ……入るよ」 階段を上った先、鍵に刻まれた部屋番号を確認し、マチルダは鍵を開け部屋の中へ入る。 中へ足を踏み入れると、部屋の奥、窓際に立っていた人物が振り向いた。 「やあマチルダ」 「エツィオ、来てやったよ」 部屋の中で待っていた人物……、エツィオは入ってきたマチルダを見て、笑みを浮かべると、抱き寄せて唇を重ねた。 「……尾行は?」 「いないよ、あんたのような尾行のうまい奴は連中にはいないみたいね」 長いキスの後、エツィオが訊ねると、マチルダは小さく笑った。 それからマチルダは少し、眉をひそめると、申し訳なさそうに呟いた。 「ニューカッスルでは……大変だったね、仮面のメイジがワルドだともっと早くわかってれば……」 「きみが気にすることじゃない、見抜けなかった俺の責任さ」 エツィオは仕方がないとばかりに肩を竦める。 「……だからこそ、責任を取る為にここに残った、マチルダ、君に力を貸してほしい」 「言うと思ったよ、で、何が御望み?」 マチルダはベッドに腰かけると、足を組みながら言った。 エツィオは、腕を組むと、険しい表情で尋ねた。 「まずは情報が欲しい、マチルダ、ワルドは今どこに?」 「ここに来る前までは、ニューカッスルの城にいたよ、あんたとそのご主人様の死体を探していたわ。 でも逃げられたって知って、手紙の回収は諦めたみたいね。今はスカボローに向かっているんじゃないかしら?」 「スカボローに?」 「ええ、なんでも三日後に、スカボローで王党派の公開処刑を行うみたいなの、そこで彼は、クロムウェルの代理として、その処刑に立ち会うみたいだね」 「クロムウェル……?」 「オリヴァー・クロムウェル……、『レコン・キスタ』総司令官、いや、今は『神聖アルビオン共和国』の皇帝だそうよ。 なんだか胡散臭い男でね、どうにも好きになれないよ……」 マチルダはそこまで言うと、なぜか俯き、黙り込んでしまった。 「マチルダ? どうかしたのか?」 「いや……うん、エツィオ、実はね……」 エツィオが顔を覗きこみ、尋ねる。 するとマチルダは、すこしためらった後、クロムウェルがウェールズを蘇生させた事を話して聞かせた。 その話しを聞いたエツィオは信じられないとばかりに顔をしかめた。 「殿下が生き返った……? そんなバカな……」 「私だって、今でも信じられないよ、死者が蘇るなんて……でもこの目で見てしまったんだ。 ウェールズが息を吹き返し、クロムウェルと会話を交わすのを、間違いないよ、あれはウェールズそのもの、仕草も癖も、全部同じだった……。 クロムウェルが言うには、命を操る、それが虚無の系統なんだって」 「虚無の……系統……」 「あいつは……、クロムウェルは、生き返ったウェールズを仲間に引き入れたみたいなの、何を企んでるかは知らないけどね」 それを聞いたエツィオの表情が険しくなった。 それからマチルダは、呻くように呟いた。 「虚無、命を操る系統……、もしそれが本当なら……」 「本当なら?」 「ワルドが言ってたんだ、『あまたの命が聖地に光臨せし始祖によって与えられているとするならば……。 すべての人間は『虚無』の系統で動いているとは言えないか?』って。ワルドも妄想だ、って言ってたけど、なんだか怖くなっちまってね……」 「……マチルダ、惑わされるな、それは奴の妄言だ」 「うん……そうなんだけどね……」 怯えたように話すマチルダに、エツィオはキッパリと言い切った。 万が一、もしそうだった場合、異世界の人間である俺はどうなるんだと、エツィオは口元を歪めた。 「……人には安らかに眠る権利がある。その眠りを妨げることは、神にすら許されぬことだ。 もしそれが事実なら、クロムウェル……奴とは一度会ってみる必要があるかもな」 エツィオはそこで言葉を切ると、顎に手を当て、険しい表情のまましばらく考え込んだ。 クロムウェル……レコン・キスタ……虚無、どうにもきな臭い、嫌な予感がする。これらを放っておいたら『リンゴ』を探すどころではなくなってしまいそうだ。 蘇ったウェールズ皇太子のことは気になるが……、表向きには討ち取られた言うことになっている人間を表に引き出すということはしないだろう。 まずはとりあえず、目的を優先させることが重要だ。そう考えたエツィオは膝を打った。 「とりあえず、『リンゴ』のことはしばらく忘れよう。クロムウェルのことは君に任せる、出来る限り奴の情報を集めてくれ」 「あんたはどうするの?」 「スカボローへ。……ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドを地獄に送る。奴はこの先俺達……いや、トリステインにとって、確実に脅威になる」 エツィオはそう言うと、アサシンブレードを引き出し、じっと見つめた。 迷わずに言いきったエツィオを見て、マチルダは背筋に寒いものを感じた。 エツィオから感じる、濃厚な死の気配。この男は、今まで何人の要人を闇に葬ってきたのだろうか? この男に狙われたら、確実に命は無い。 トライアングルのメイジであるマチルダでさえ、そう感じずには居られず、思わず震えあがった。 エツィオは、そんなマチルダを知ってか知らずか、アサシンブレードを収めて、尋ねた。 「ワルドは、俺のことについて何か言っていたか?」 「え? ……あ、特に何も、あんたはご主人様と一緒にトリステインに逃げたと思っているみたいね。あんたのことはクロムウェルの耳にも入っていないよ」 「……警戒していない、か、好都合だ」 エツィオは口元に小さく笑みを浮かべ、立ち上がる。 「明日になったら、早速スカボローへ立つとしよう。マチルダ、当日にそこで合流だ」 「わかった、その時になったらもう一度手紙を出すよ」 「頼んだ。……ああそれと、ちょっと頼みがあるんだけど……」 今まで硬い表情だったエツィオが、なにやら困ったような、それでいて気まずそうな笑みを浮かべはじめた。 「なに?」 「実は、この宿に泊まるのに、全部使ってしまったんだ……。だからその……ちょっとお金を貸してくれると助かるんだけど……」 「はあ? あんた私に金を払ってただろう? あの傭兵達から奪った金はどうしたんだい?」 「君に全部渡しちゃってたんだ……あの時はルイズもいたし、なんとかなると思ってて……」 エツィオは頭を掻きながら、気恥ずかしそうに言った。 さっきまでの冷徹な雰囲気はどこへやら、拍子抜けしたマチルダは思わずため息をつく。 「わかったよ……まったくしょうがない男だね」 マチルダは呆れた笑みを浮かべると、財布を取り出し、エツィオに金を恵んでやった。 「すまないな」 「ヒモ」 「はは……、返す言葉もない……」 「ちゃんと返してよね」 「もちろん……借りはちゃんと返す主義なんだ……倍返しでね」 エツィオは、優雅に笑みを浮かべると、ベッドに腰かけるマチルダと唇を重ねる。 そのまま肩に手を置くと、マチルダを優しくベッドに押し倒した。 「えっ、ちょっと……まっ……あっ……」 突然のエツィオの行動に、目を白黒させるマチルダをよそに、エツィオは燭台の灯に、フッと息を吹きかける。 蝋燭の灯が吹き消され、部屋に真っ暗な夜の帳が降りた。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/623.html
馬の蹄が無数に大地を踏みしめる音が聞こえる。竜の風を切る羽ばたきが聞こえる。 鉄の鎧がぶつかり合う音が聞こえる。整然とした軍靴の生み出すの行進の音が聞こえる。 剣のぶつかり合う音、杖のぶつかり合う音が聞こえる。怒声が、悲鳴が聞こえる。命の消える音が聞こえる。 それら戦場が生み出す音楽をBGMに少年と男が戦っている。少年は片刃の長剣、男はレイピアのような杖で。 白の王国アルビオン、ニューカッスル城は今まさにレコン・キスタの軍勢に飲み込まれようとしていた。 少年と男は短い時間ではあるが仲間だった。王女の依頼を実行するため様々ないさかいを繰り替えしながらも 少年は男を自分以上に強く、頼りになると渋々ながらも認めていた。 しかし、この土壇場で男は裏切った。 男は一人ではない。鏡に写したかのように寸分に違わぬ姿の男が四人。 風が最強たる理由、風の遍在である。対して少年は一人。 普通ならば少年は圧倒的に不利だ。しかし彼は四人の男と互角と言えるほどに切り合っていた。 彼らから少し離れて、少女が床に倒れ伏している。桃色の髪をした少年の主。 「理由なんてどうだっていい、ルイズは俺が守る!」 男の魔法で吹き飛ばされた少女の姿を見て、激昂した少年は叫ぶ。とても普段の彼ならば言えぬような言葉だ。 心の震えが彼に力を与えているのだ。左手のガンダールヴのルーンを通じて。 見る間に少年の動きが加速する。男の一人が長剣を避けきれず切り裂かれ消滅した。 「貴様!」 分身を消された男が叫ぶ。一瞬だが分身が長剣で両断される光景を、 未来の自分として見てしまったのだ。こんな少年に恐怖を感じたことを男は恥じた。 「古臭い伝説は! このまま眠れ!」 男は一気に攻勢に出た。三つの杖が少年に時間差を付け、突き出される。エア・ニードルを掛けられた杖は生半可な剣より鋭い。 しかし三つの杖、それが体に到達する前に少年は長剣を振り終えていた。 分身が二つ消滅する。斬撃の勢いで男は床に叩きつけられた。遅れて、切り飛ばされた左腕が床に落ちる。 「う……くそ、この『閃光』が後れをとるとは……」 男は立ち上がり左腕の傷を抑える。傷より先には何も存在しない。 地面を汚すのは傷より流れ出る赤い血。 右腕で杖を振るい、フライの魔法を発動した。男の額には冷や汗が吹き出ている。 「ここにはもうすぐ我がレコン・キスタの軍勢が押し寄せる。伝説よ、愚かな主人を守って灰になれ」 捨てゼリフを残し男は砕けた壁の穴から飛び去ろうとする。 「待て! ワルド!」 少年はワルドと呼ばれた男を追いかけようするが、不意に体勢を崩し大きく転んだ。 今までの死闘による疲労が今になって一気に出たのだ。 剣を杖の代わりにして少年は立ち上がる。しかしワルドはすでに壁の穴から外へ出てしまっている。 もはや追いつけない。 「相棒、早く娘ッ子を連れて逃げ出せ。レコン・キスタの軍勢が来るぜ」 ワルドの血に濡れた長剣デルフリンガーが才人に警告する。 疲労にきしむ体を無理やり動かし少年は少女のそばへと一歩一歩近づく。 「もう、無理だ。イーグル号は出航した」 ポツリとつぶやくように少年はもらした。 気を失った少女を抱きかかえる。 「サイト……」 少女が小さく少年の名を呼んだ。しかし少女は目覚めない。気絶したまま頭の中で幻でも見ているのだろうか。 慎重に才人は少女を長椅子の上に横たえる。 「ルイズ……」 ルイズはほこり、傷、汗で汚れている。ボロボロになりながらも彼女は敵と戦おうとしたのだ。 才人は指でルイズの顔のほこりをぬぐう。せめて綺麗になるように。 「相棒、もうすぐレコン・キスタの奴らが来るぜ」 「俺は……ガンダールヴだ、ルイズを守る」 そう言って才人は剣を持ち直した。しかし彼の全身は疲労の波に飲まれている。 万全の状態ならばともかく、今の才人では長くは戦えない。 「デルフ、伝説の再演だ。やってやろうじゃねえか」 「おお、相棒がその気ならオレも負けちゃいられねえ」 二人が気合を入れ、覚悟を決めたちょうどその時である。 ルイズの近くの地面が盛り上がり、何かが顔を出した。 何か、それは巨大なモグラ。おかしな縁から才人の友人となった ギーシュ・ド・グラモンの使い魔である。 「ヴェルダンデ、やっと掘るのをやめたんだね。けれどここは一体どこだろう?」 モグラに続いて顔を出したのは、とぼけた顔をしたギーシュ・ド・グラモン本人である。 「おや、誰かと思ったらサイトじゃないか。と言うことはここはニューカッスルかい?」 「ギーシュ! ちょうど良かったその穴は外に通じているのか?」 「その通りさ、ぼくのヴェルダンデが掘ったんだ。スゴイだろう」 その言葉を聞くなり才人はルイズを抱き上げ、ギーシュに代わりに抱えているように言うと、 ワルドに殺されたウェールズのそばにより指から指輪を外しポケットに入れる。 アンリエッタへのせめてもの形見として。 「サイト、後ろ!」 突然ギーシュの声が響いた。才人はとっさに振り向きながら デルフリンガーを横向きに持ち上げた。 金属と金属がぶつかり、火花が走る。片刃の長剣と両刃の長剣がぶつかったのだ。 才人の前には体の前面だけを保護する鎧を着けた軽装の戦士がいた。 何故か、顔には水色の宝石がはめ込まれた仮面を付けている。 戦士の長剣はすでに赤く染まり、鎧や服にもいたる所に血が付いていた。 戦士の力は強い。才人は鍔迫り合いのまま押されていく。 ヤバイ、そう思った瞬間、押し切られ才人は床へと転んだ。 しかし追撃は来ない、仮面の戦士の周りをギーシュのゴーレム・七体のワルキューレが取り囲んでいたからだ。 「早く来いサイト!」 ギーシュが穴の中から叫ぶ。 それに応じて才人は駆け出し、穴へと滑り込む。 剣や槍、各々の武器を持ち戦士を取り囲むワルキューレ達。 戦士は自分を取り囲んでいるワルキューレ全てを、大きく一度長剣を薙いだだけで破壊した。 大小様々な破片が衝撃で宙を舞う。まさに鎧袖一触という言葉がふさわしい。 長剣では届かぬ間合いのものさえも、砕かれている。 才人が穴にもぐる瞬間、振り返り見た戦士は何故か仮面を付けているのに笑っているように見えた。 ワルドは飛びながらマントを裂き、左腕の傷口のすぐ上をきつく縛った。 左腕を失くすという深手を負いながら魔法で空を飛ぶのは苦しい。 普段なら何でもない精神集中が今のワルドには出来ない。 故に、ワルドは高度を低く取っていた。それがある一つの結果を招いた。 レコン・キスタの傭兵部隊が低空を飛ぶワルドを発見したのだ。 彼らにはワルドがレコン・キスタの者だとは分からない。 傭兵達は良いカモだと思い、次々に空に向けて銃を撃つ。 何発もの銃弾が空へ向かい、その内の一発がワルドの胸を貫いた。 ワルドは何が起こったのか理解する間もなく落下していく。 歓声を上げる傭兵達。彼らとて、まさか本気で落とせるとは思っていなかった。 けれどワルドが地面に叩きつけられる寸前、翼を持つ何かがワルドの体を救い上げ、 そのままどこかに飛び去って行くのを傭兵達は目撃した。 傭兵達は落胆しながらそれぞれの仕事に戻っていく。 ワルドがその日レコン・キスタの陣営に現れることはなかった。 土くれのフーケは途方に暮れていた。レコン・キスタのワルドに協力し 港町ラ・ロシェールで王女の密命を帯びた一行を足止めして、アルビオンに向かい 事前に教えられていた落ち合う場所に向かったものの、いくら待ってもワルドは現れない。 ニューカッスル城は陥落し、戦争後の混乱でワルドを探すこともままならない。 それとなく探ってみてもワルドは行方不明ということしか分からなかった。 もともと貴族というものは嫌いだし、レコン・キスタとも離れようか。 そんなことを考えながらフーケはここ数日の日課になったレコン・キスタ軍への 情報収集に出かけようと森の中にこしらえたねぐらを出た。 ねぐらを出て歩きながら、フーケは周囲を見回した。 何者かに囲まれている。無言でフーケは杖を取り出す。 「そう警戒しないでくれないか、土くれのフーケ。いやミス・サウスゴータ」 杖を取り出したフーケに焦ったのか、木々の間から聖職者のような格好をした男素早くが歩み出た。 「私はオリヴァー・クロムウェル。不肖ながらレコン・キスタ総司令官を務めさせていただいておる。 元は一介の司教に過ぎぬがね。君のことはワルド子爵からの報告で聞いているよ。周りの者達は私の親衛隊だ。 君に会うのに危険はないと主張したのだが、彼らが聞き入れてくれなくてね。許してもらいたい」 指で何らかの合図をクロムウェルは出す。それに応じてか、木々の合間に潜んでいた親衛隊の面々が現れる。 彼らはほとんどが貴族だ。フーケの嫌いな傲慢と自尊心に満ち溢れた顔をしている。 その中でフーケは異質な人物を二人見つけた。 一人は仮面の戦士、腰には長剣を付けている。クロムウェルがメイジを差し置いて 平民をそばに置くとは、よほどの使い手なのだろうか。 もう一人はフーケの見知った人物であった。ウェールズ・テューダー。 アルビオン王国軍の総司令官であった人物である。 「何故ウェールズが!?」 ウェールズはニューカッスル城で戦死したと思い込んでいたフーケは、咄嗟に疑問を口にする。 「彼は心を改めたのだ。我々の大儀を理解し賛同してくれたのだよ」 フーケは胡散臭そうにウェールズを見る。昔会ったウェールズは その様に心変わりする人物ではなかった、けれど今のフーケにはどうでも良いことである。 「……分かったわ、それでワルドは?」 杖を収めながらフーケは最も気がかりなことを聞いた。 ワルドがいるのといないのではこれからレコン・キスタで働くのに大きな違いが出る。 強力なメイジであるワルドの後ろ盾はあった方が良い。 それにレコン・キスタへの協力という交換条件だったとは言え、牢から出してくれた恩もある。 「残念だが子爵は行方不明だ。彼に託した任務も失敗したとみなすほかないだろう。彼を失いたくはなかった」 沈痛な面持ちでクロムウェルは眼を伏せた。口元で始祖ブリミルへの祈りの言葉を捧げている。 彼も彼なりにワルドのことを悲しんでいるのだろう。 「君にはこれからレコン・キスタの一員として働いて欲しい。ミス・サウスゴータ。 子爵がいない今トリステインの実情を知る君は貴重な存在だよ、 もっともトリステイン、ゲルマニアとは不可侵条約を結ぶことになっているがね」 「いいわ……ちゃんと報酬を出しなさいよ」 「ははは、貧乏な司教時代とは違うよ。この広大なアルビオンは、今や私の手の内にあるのだからね」 クロムウェルは両腕で四方の大地を指し示し、自らの言葉に酔うように笑い続けた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2794.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 フリッグの舞踏会も終わり皆が寝静まった夜分。 押し殺した足音が近づいてくるのに気づいた彼女はまぶたを開けた。 こんな時間、こんな場所に、いったい誰が、何の用なのか。 「こんばんは」 暗闇の中語りかけてくる人影に視線を向け、彼女は息を呑んだ。 予感が無かった訳ではない。 そいつは、自分に用があるような言動を取っていた。 鉄格子の向こうにいるそいつに、彼女は応じる。 「コトノハとかいったっけ。何の用だい?」 「土くれのフーケさん。お願いがあって来ました」 そう言って、言葉は右手に持っている物を見せる。 フーケの杖だ。 「そのお願いとやらを聞けば、杖を返してくれるって訳かい」 「ええ。そうすればここから逃げ出せるでしょう?」 「……誰かに見られてないだろうね」 「大丈夫です。あなたもご存知の通り、この学院の警備はなってませんから。 見張り番の方、ぐっすりとお休みになっていました」 土くれのフーケに神殺しを奪われた際に露呈した魔法学院の教師達の怠惰な姿。 それはまったく反省される事無く、むしろフーケが捕まって一安心とばかりに、 舞踏会という事もあってか全力でだらけていた。 おかげで言葉は、特に労力を使わずフーケの杖を取ってここまで入ってこれたのだ。 「はんっ……あんたがいったい何を頼むのか、興味はあるね」 「同業者にクロムウェルという方はいらっしゃいませんか?」 「クロムウェル? 聞いた事のある名前だけど、同業者じゃないねぇ」 「あなたが知っているクロムウェルはどういう方ですか?」 「知ってると言っても、面識がある訳じゃないし、特別な情報は持ってないよ。 アルビオンの貴族達が国王相手に起こした反乱の首謀者が、そんな名前ってくらいさ」 「……アルビオンというのは?」 「知らないのかい? ……トリステインの西にある、浮遊大陸の国よ。 空での戦いでは圧倒的な戦力を持つけど、国内での反乱じゃ、その力も生かせないね」 「そのクロムウェルという方、特殊な魔法を使ったりしていませんか?」 「知らないね」 「……ではアンドバリの指輪という物をご存知ありませんか?」 「聞いた事の無いお宝だね。どんな代物なんだい?」 「……」 「詳細が解れば、もしかしたら知ってるかもしれないし、探しようもあるよ」 「その前に誓ってください。絶対に、私を裏切らない……と」 その時、フーケは確かに見た。 人影すらおぼろな暗い闇夜の中、一際暗く深い穴ぼこのような瞳。 殺される。 直感する。裏切ったら殺される、ゴーレムを倒した謎の力でどこまでも追ってくる。 悪ではない漆黒の意志にフーケは戦慄を覚えた。 「……解った、解ったよ降参だ。あんたのその精神を敵に回す度胸、私にゃ無いよ」 「そうですか」 「あんたのお目当てはアンドバリの指輪って奴で、 その指輪を持ってる奴がクロムウェルって名前……ってとこかね? 探してやるさ。……ところで、あんたのご主人様はこの事を知ってるのかい?」 瞬間、言葉の瞳の黒が揺れて、その向こうに違う色が一瞬だけ見えた気がした。 「……知りませんよ」 「裏切りは赦さない……しかし自分はご主人様を裏切るってか、なかなかの悪党だね」 「……アンドバリの指輪の能力を話します。黙って聞いてください」 年下の少女に戦慄を覚えてしまったフーケの捨て台詞は、確かに言葉を苛立たせていた。 まさか効果があるとは思っていなかったフーケは、 まだこの少女に人間らしい心が残っている事に驚きながら指輪の説明を受けた。 翌朝、土くれに変えられた鉄格子と、中に誰もいない牢が発見され、 学院は再び大騒ぎになってしまった。 「私のシュヴァリエが~……」 騒ぎを聞いた後、ルイズはオールド・オスマンから、 フーケ脱走のせいで褒美のシュヴァリエは無かった事にと言われてしまった。 ただでさえ言葉がコルベール殺しだと思われてるのに、何なのこの仕打ち。 不幸で不運で薄幸で、誰かどうにかしてください。 などとルイズが嘆いていると、教室で授業が始まる前のわずかな時間に言葉が謝った。 「……ごめんなさい」 「え、何?」 ルイズには言葉が謝る理由が解らない。 コルベールの件は、もう自分達の間で決着がついている。 土くれのフーケを逃がしたのは言葉だという事をルイズは知らない。言葉も話さない。 ――裏切りは赦さない……しかし自分はご主人様を裏切るってか、なかなかの悪党だね。 「コトノハ。何かあったの?」 あの後、舞踏会が終わって寮に戻り、貴女が寝静まった後。 土くれのフーケを逃がしに行きました。なんて、言えない。 「……言いたくないなら、無理に聞こうとしないけどさ。 何について謝ってるのか話してくれなきゃ、許したくても許せないわよ」 「…………ごめんなさい……」 結局、何を謝っているのか解らぬまま授業が始まってしまった。 以前は異世界の授業に興味を示していた言葉だが、 今日は誠とチェーンソーの入った新しい大きな鞄をじっと見つめていた。 ちなみにチェーンソーの刃で誠が傷ついたりしないよう、刃はシーツで包んである。 新しい鞄も、刃を覆うシーツも、ルイズが用意してくれた物。 誠以外に唯一、言葉を想ってくれる人。 自分がルイズのためにして上げた事は、何かひとつでもあっただろうか? 何も無い。 きっと、これからも。 自分は裏切り者だから。 言葉のコルベール殺しの噂のせいで、ルイズは学院でさらに孤立する事となった。 今ではもう教師すら彼女を無視し、声をかけるのはキュルケくらいのものだ。 元々『ゼロ』と蔑まれていたルイズ、浴びせられるものが侮辱が無視に変わったとて、 今さら荒れるほどのものでもないし、むしろ怒鳴り返す必要が無いため今の方が楽だ。 言葉がコルベールを殺したと思われているのは不快だが、 その誤解を解くなんて不可能に近いし、ルイズは違うと信じているので、それでいい。 でも、やっぱり少し、さみしかった。 一週間後。 言葉がルイズの部屋の掃除をしていると、部屋の戸をノックも無しに開ける者が現れた。 「こんにちは、えーと……コトノハさん?」 フードを深くかぶって顔を隠しているが、その声は間違いなく土くれのフーケだった。 「こんにちはフーケさん。何か解りましたか?」 「手がかりがアルビオン貴族派のクロムウェルしかないから調べてみたけど、 何だかいきなりビンゴだったみたいだよ」 「そうですか。もう少し詳しくお願いします」 「奴は貴族派というより、レコン・キスタって組織の頭みたいだね。 レコン・キスタってのは『聖地』の奪回やら、貴族による共和制を掲げてる胡散臭い組織。 その頭のクロムウェル……オリヴァー・クロムウェルは、元はただの司教で、 メイジですら無かった男だけど……今は『虚無の担い手』って噂よ。 メイジでない男が虚無の魔法を使う。馬鹿げた話さね。 となれば、マジックアイテムに頼ってると考えていい。 そして貴族どもですら、それを虚無と思い込んでしまうような魔法、 どこのスクウェアメイジにも作る事は不可能だねぇ……となれば先住の力。 精霊は先住の力を使うから、アンドバリの指輪も多分、先住の力を持ってるんだろう。 指輪は仮初の命を与えるだっけ? クロムウェルが使う虚無の力ってのは、 人の生命をどうこうする魔法だって話も聞いたよ。これも噂程度だけどね。 不確かな情報の方が多いが、それでもこれだけ怪しけりゃ、可能性は十分さ」 「……そうですね。その指輪をあなたが盗んでくる事はできますか?」 「無理だよ。今は戦時中だからね、クロムウェルの身の回りは固められてるだろうさ」 「……それでも、アルビオンに行けば、指輪を手に入れるチャンスは……」 「ある。限りなくゼロに近いけどね。 あんたに殺されるのは御免だけど、レコン・キスタに殺されるのも御免だ。 危ない橋を渡らない範囲でなら協力してやるから、やるなら、自分でやっとくれ」 「そうですね、そうします。どうもありがとうございました」 「……それと、あんたが下手すれば、ご主人様のミス・ヴァリエールの立場もヤバくなる。 もしあんたにご主人様を気遣う程度の心があるなら、ちょっとは気にかけてやんな」 淡々と話を聞いていた言葉だが、ルイズの話題を出されると、やはり、瞳が揺らいだ。 わずかだが動揺し、悩んでいるのをフーケの観察眼は捉える。 「……じゃ、私はこれで。また何かあったら伝えにきてやるよ。 あんたが迎える末路がどんなだか、ちょいと興味があるからね」 そう、興味がある。この狂気の娘の行き着く先が。 血塗られた惨劇か、あるいは……。 フーケはニタリと笑って退室し、そのまま誰にも見つからず学院を去った。 残された言葉は、希望という闇と、迷いという光に揺れていた。 しかし、裏切り者である言葉が光を選ぶなどできるはずがない。 裏切り者の末路は、西園寺世界のような、惨劇であるべきだ。 惨劇でもいい。最後に言葉と誠さえいれば、それで。 そう、言葉は自分に言い聞かせた。 言い聞かさねばならなかった。 第10話 裏切りの言葉 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/comma/pages/16.html
進行中に貼るといいよ 0079 ギレン・ザビのガルマ・ザビ国葬での演説 我々は一人の英雄を失った。しかしこれは敗北を意味するものか?否!始まりなのだ。 地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ。 一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度連邦に踏みにじまれたかを思いおこすがいい。ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない。私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!? 「坊やだからさ」 戦いはやや落ち着いた。諸君らはこの戦争を対岸の火と見過ごしているのではないだろうか?だが、それは罪深い過ちである。地球連邦は聖なる唯一の地球をけがして生き残ろうとしている。我々はその愚かしさを地球連邦のエリートどもに教えねばならんのだ。 ガルマは、諸君らの甘い考えを目覚めさせる為に死んだ。戦いはこれからである。我々の軍備はますます整いつつある。地球連邦軍とてこのままではあるまい。諸君の父も兄も、連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない。それをガルマは死をもって我々に示してくれたのだ。 我々は今、この怒りを結集し、連邦軍に叩きつけて真の勝利を得ることができる。この勝利こそ、戦死者全ての最大の慰めとなる。 国民よ立て。悲しみを怒りに変えて、立てよ国民! ジオンは諸君らの力を欲しているのだ。ジーク・ジオン! 00?? とある戦争狂の演説 諸君、私は戦争が好きだ 諸君、私は戦争が大好きだ 殲滅戦が好きだ、電撃戦が好きだ、打撃戦が好きだ、 防衛戦が好きだ、包囲戦が好きだ、突破戦が好きだ、 退却戦が好きだ、掃討戦が好きだ、撤退戦が好きだ 平原で 街道で 塹壕で 草原で 凍土で 砂漠で海上で 空中で 泥中で 湿原で ~省略~ 更なる戦争を望むか? 情け容赦のない糞の様な戦争を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか? よろしい、ならば戦争だ! ……ジャブロー攻略作戦、状況を開始せよ! どっか別の世界 馬鹿の演説 はっ、何を言うてんカミやんは。ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母 双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロング ショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み 二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん 看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリ抉れショタ ツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱 アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人 メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着 バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を愛する事ができる包容力を持ってるんやで? ???? 何か馬鹿と戦争狂が混じった場合 諸君、ボクぁ女性が好きや 諸君、ボクぁ女性が大好きや 年増女が好きや、巫女娘が好きや、百合娘が好きや、 電波娘が好きや、冷静娘が好きや、ツンデレが好きや、 抉れ娘が好きや、人外娘が好きや、獣耳娘が好きや 平原で 街道で 塹壕で 草原で 凍土で 砂漠で 海上で 空中で 泥中で 湿原で ~省略~ 更なる規制を望むか? 情け容赦のない糞の様な二次規制を望むんか? 卑怯千万の限りを尽くし三千世界の女性を殺す嵐の様な闘争を望むんか? よろしい、ならば戦争や! ???? とある鬼軍曹の演説 貴様ら宙豚どもが俺の訓練に生き残れたら――― 各人が兵器となる 戦争に祈りを捧げる死の司祭だ その日まではウジ虫だ! 宇宙内で最下等の生命体だ 貴様らは人間ではない 両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない! 貴様らは厳しい俺を嫌う だが憎めば、それだけ学ぶ 俺は厳しいが公平だ 人種差別は許さん 宙豚、地球豚、新種豚を、俺は見下さん すべて――― . . 平等に価値がない! 俺の使命は役立たずを刈り取ることだ 愛する突撃隊の害虫を! 分かったか、ウジ虫! 破壊するm…愛する者の呟き {――――私は、人が好きよ} {――――誰が好きかって?違う、違うわ!私は人間がみんなみんなみんな好きなのよ!} {――――どこが好きかって?野暮な事聞かないで!全部よ、全部!} {――――鮮やかで居ながら身体を巡るうちにどす黒く堕ちていくあの熱い熱い血汁が好き!} {――――柔らかいのに固くて簡単に裂けちゃう筋張った筋肉が好き!} {――――どこまでもしなやかなのに脆くて鋭くてザラついた硬骨が好き!} {――――震えるように柔らかくてサラサラとグチャグチャと纏わり付いてくる軟骨が好き!} {――――触れ合った時にとってもとっても響く声で愛を囀り叫んでくれる喉が好き!} {――――私の愛に答えて涙を流してくれる瞳が好き!} {――――愛が絶頂に達した時の……切り裂いた肉の断面が何よりも何よりも愛おしくて。} {――――何もかも、何もかもが大好きなのよ。わかる?} 0083 エギーユ・デラーズの連邦への宣戦布告 地球連邦軍、並びにジオン公国の戦士に告ぐ。我々はデラーズ・フリート! 所謂一年戦争と呼ばれた、ジオン独立戦争の終戦協定が偽りのものであることは、誰の目にも明らかである!何故ならば、協定は『ジオン共和国』の名を騙る売国奴によって結ばれたからだ。我々は些かも戦いの目的を見失ってはいない。それは、間もなく実証されるであろう。 私は日々思い続けた。スペースノイドの自治権確立を信じ、戦いの業火に焼かれていった者達の事を。そして今また、敢えてその火中に飛び入らんとする若者の事を。 スペースノイドの心からの希求である自治権要求に対し、連邦がその強大な軍事力を行使して、ささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を、証明するに足る事実を私は存じておる。 見よ、これが我々の戦果だ。このガンダムは、核攻撃を目的として開発されたものである。南極条約違反のこの機体が、密かに開発された事実を以ってしても、呪わしき連邦の悪意を否定出来得る者がおろうか! 省みよう。何故ジオン独立戦争が勃発したのかを!何故我等がジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを! 我々は三年間待った。もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はおらん。今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連邦政府に対し、宣戦を布告するものである。 仮初の平和への囁きに惑わされる事なく、繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!! 0087 クワトロ・バジーナのダカール演説 閉会するな!この席を借りたい! 議会の方と、このテレビを見ている連邦国々民の方には、突然の無礼を許して頂きたい。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であります。 話の前に、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。私はかつてシャア・アズナブルという名で呼ばれたこともある男だ。私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである。 ジオン・ダイクンの遺志は、ザビ家のような欲望に根差したものではない。ジオン・ダイクンがジオン公国を作ったのでは無い。現在ティターンズが地球連邦軍を我が物にしている事実は、ザビ家のやり方より悪質であると気付く。 人が宇宙(そら)に出たのは、地球が人間の重みで沈むのを避ける為だ。そして、宇宙(そら)に出た人類は、その生活圏を拡大したことによって、人類そのものの力を身に付けたと誤解をして、ザビ家のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。それは不幸だ。もうその歴史を繰り返してはならない。 宇宙(そら)に出ることによって、人間はその能力を広げることが出来ると、何故信じられないのか?我々は地球を人の手で汚すなと言っている。ティターンズは地球に魂を引かれた人々の集まりで、地球を食いつぶそうとしているのだ。 人は長い間、この地球と言う揺り籠の中で戯れてきた。しかし!時はすでに人類を地球から、巣立たせる時が来たのだ。その後に至って何故人類同士が戦い、地球を汚染しなければならないのだ。地球を自然の揺り籠の中に戻し、人間は宇宙(そら)で自立しなければ、地球は水の惑星では無くなるのだ。このダカールさえ砂漠に飲み込まれようとしている。それほどに地球は疲れきっている。 今、誰もがこの美しい地球を残したいと考えている。ならば自分の欲求を果たす為だけに、地球に寄生虫のようにへばりついていて、良い訳がない。 現にティターンズはこのような時に戦闘を仕掛けてくる。見るが良い、この暴虐な行為を。彼らはかつての地球連邦軍から膨れ上がり、逆らうものは全てを悪と称しているが、それこそ悪であり、人類を衰退させていると言い切れる。 テレビを御覧の方々はお分かりになる筈だ。これがティターズのやり方なのです。我々が議会を武力で制圧したのも悪いのです。しかしティターンズはこの議会に自分達の味方となる議員がいるにも関わらず破壊しようとしている。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8348.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― アルビオン空軍工廠の街ロサイスは、首都ロンディニウムの郊外に位置している。 革命戦争の前からここは、王立空軍の工廠であった。したがって、様々な建物が並んでいる。 巨大な煙突が何本も立っている建物は、製鉄所だ。その隣にはフネの建造や修理に使う、木材が山と積まれた空き地が続いている。 そして、一際目立つのは、赤レンガの塀に囲まれた大きな建物、そこは空軍の発令所であった。 そこには誇らしげに『レコン・キスタ』の三色の旗が翻り、そのすぐ横に併設された造船所では天を仰ぐばかりの巨艦が停泊している。 雨よけの為の布が、巨大なテントのように、改装工事を終えたばかりのアルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号の上を覆っている。 全長二百メイルにも及ぶ巨大帆走戦艦が、これまた巨大な盤木に乗せられ、明日の演習に備え、装備の点検と物資の搬入、整備が行われていた。 「アルセナーレか、随分とでかいんだな」 「アルセナーレ?」 そんな造船所を囲む赤レンガの塀を見上げていたエツィオが呟いた。 「俺の国の言葉で、こういう場所を差すのさ。兵器工廠とか、こういった造船所とかな。 ヴェネツィアのが有名なんだが……生憎、まだ行ったことがなくてね、こうして見るのは初めてだ」 デルフリンガーの問いに、エツィオはそう答えると、中へと続く正面の門を見つめる。 ……やはりというべきか、門の前には衛兵の一団が睨みを利かせている。 出入りを許されている筈の荷物持ちの人夫や作業員にすら厳重なチェックを行っているため、 人込みに紛れて侵入、というわけにはいかなそうだ。 エツィオは少し考えると、他に出入り口は無いか探すために塀を沿う様に歩きはじめる。 革命戦争時の傷痕だろうか? 塀は所々崩れている場所がある、よじ登ることはできないことは無いが、 塀の上には歩哨が巡回しており、乗り越えての潜入は少々難しいだろう。 そうやって塀の外側を歩き、やがて人通りの少ない通りに入る。 建物の西側に位置しているために日中でもあまり日が差さないその通りに、エツィオの望んでいたものがあった。 裏口である。扉の前には、メイジの衛兵が一人、通りを歩く人物に不審な人物がいないかどうか監視していた。 裏口の警備を担当していたメイジの衛兵は、こちらをちらと見ると、腰に下げた杖に手をかけた。 手配書にある王家のマントが見えないように背にかかっているとはいえ、人通りの少ない路地に現れたエツィオは、やはり彼から見て不審人物なのだろう。 衛兵は直立不動のまま、口の中でルーンを唱え、何時でも呪文を放てるようにこちらを意識している。 だがエツィオは、衛兵に一瞥するわけでもなく、ただの通行人を装い、彼に近づいてゆく。そして何食わぬ顔で彼の目の前を素通りしたその時だった。 ――ちりん……と、衛兵の目の前に一枚の金貨が落ちた。 気がついていないとみた衛兵は、にんまりと笑みを浮かべその金貨を拾い上げた。その瞬間―― 「ぐぉっ……!?」 エツィオは衛兵の心臓に左手の隠し短剣を叩きこみ、開いた右手で即座に背後の扉を開け、 そのまま死体と共に造船所の中に飛び込んだ。 読みは当たっていたようだ、裏口だけあってか、周囲に人の気配は無く、この騒ぎも感づかれた様子は無い。 まんまと造船所への潜入に成功したエツィオは、空の大樽を見つけると、その中に先ほど殺害した衛兵の死体を放り込みふたを閉める。 「さて……」 エツィオは物陰に潜み、巨艦『レキシントン』号へと近づいてゆく。 どうやら監視が厳しいのは正門だけのようだ、造船所内部は見張りがぽつぽつといるだけで、後は多くの整備兵が『レキシントン』号の整備に勤しんでいる。 さらに都合のいいことに、改修も終わって間もないためか、『レキシントン』号の周りには資材や貨物が人の背丈よりも高く積まれたままになっており、 身を隠すために手ごろな物影が多く存在していた。 物持ちの人夫や整備兵達の合間を縫い、時には物陰に隠れながらエツィオは『レキシントン』号へと歩いてゆく。 「おお、これはこれは、なんとも大きく、頼もしい艦ではないか!」 エツィオが『レキシントン』号に近づこうとしたその時であった、この場には似つかわしくない、快活な声が聞こえてきた。 エツィオはすぐさま物陰に身を隠し、声がした方向を覗き見る。 共の者を引き連れた一人の男が、『レキシントン』号を見上げ、仰仰しく声を上げているのが見えた。 「余も近くで見るのは初めてであるが……。この様な艦を与えられたら、世界を自由にできるような。そんな気分にならんかね? 艤装主任……いや、今は艦長であったな、ミスタ・ボーウッド」 「我が身には余りある光栄ですな、皇帝閣下」 もう一人の男が、気のない声で答えるのを見て、エツィオは目を細めた。 「閣下……? なるほど……奴がクロムウェル……」 エツィオは思いがけず現れたレコン・キスタの首魁、神聖アルビオン共和国皇帝クロムウェルを身を潜めながらじっと見つめる。 年の頃は三十代の半ば、高い鷲鼻にカールした金髪が特徴的な聖職者風の男だ。 なんの変哲もない、ともすればどこにでもいそうな男だが、これでもアルビオン共和国の皇帝のようだ。 しかしマチルダによれば、彼こそが失われた系統『虚無』を操り、死者をも蘇らせる力を持っているという。 だとすれば、計り知れない力を秘めたメイジなのだろう、そう考えていたエツィオであったが、やがて妙な事に気がついた。 「ん……? あいつ……」 エツィオはクロムウェルを見て、妙な違和感を覚えた。 確かに腰には確かに杖らしきものを下げている。しかし、エツィオはその杖にあるべきものが見えない事に気がついた。 いや、それどころか、メイジならば見えるはずのものが、クロムウェルからは全く見る事が出来なかった。 「あいつ、メイジじゃないのか……?」 「は? メイジじゃない? クロムウェルがか?」 思わず呟いたエツィオに、腰に下げたデルフリンガーが尋ねる。 エツィオは首を傾げると、クロムウェルから目を離さずに言った。 「『虚無』がそういうものなのだ、と言われたら反論はできないが……、俺が"見る"限り、奴はメイジではない、あの杖はただの棒きれだ」 「ああ、例の"タカの眼"か……ってオイ、そりゃ本当か?」 「……あれは」 エツィオはさらに何かに気がついたようだ、懐から『風のルビー』を取り出し、クロムウェル……いや、正しくは彼の指先を交互に見比べる。 ここからでは僅かにしか確認できないが、クロムウェルの指に、何かが光っている。果たしてそれは、小さな指輪であった。 エツィオから見て、その指輪には強い魔力が宿っているのが見えた。何かのマジックアイテムなのだろうか? 「あの指輪……なんだ? 『風のルビー』とは大分違うみたいだが……ん?」 そこまで言ったエツィオはクロムウェルの傍らに控える、フードを目深に被った男を見た。 あの男……、とエツィオは小さく呟く、その男がメイジであることはわかる、だが、何かがおかしい。 エツィオのタカの眼には、クロムウェルの指先に光る指輪……それと同質の魔力に覆われているのが見える。 クロムウェルの持つ力に関係しているのだろうか? そう考えながら、注意深くその男を観察する。だが、生憎ここからでは顔は見えなかった。 とにかく今は様子を見るべきだ。そう考えたエツィオは、見つからないように注意しながら、クロムウェル達の会話を見守った。 「見たまえ。あの大砲を!」 クロムウェルは舷側に突き出た大砲を指さした。 「余のきみへの信頼を象徴する、新兵器だ。アルビオン中の錬金魔術師を集めて鋳造された、長砲身の大砲だ! 設計士の計算では……」 クロムウェルの傍に控えた長髪の女性が答えた。 「トリステインやゲルマニアの戦列艦が装備するカノン砲の射程の、およそ一・五倍の射程を有します」 「そうだな、ミス・シェフィールド」 ボーウッドは、シェフィールドと呼ばれた女性を見つめた。冷たい妙な雰囲気のする、二十代半ばくらいの女性であった。 細い、ぴったりとした黒いコートを身に纏っている。見たことのない、奇妙ななりだった。マントも付けていない、ということはメイジではないのだろうか? クロムウェルは満足げに頷くと、そんなボーウッドの肩を叩いた。 「彼女は、東方の『ロバ・アル・カリイエ』からやってきたのだ。エルフより学んだ技術で、この大砲を設計した。 彼女は未知の技術を……、我々の体系に沿わない、新技術をたくさん知っておる。きみも友達になるがよい、艦長」 ボーウッドはつまらなそうに頷く、彼は心情的には、実のところ王党派であった。 しかし彼は、軍人は政治に関与すべからずとの意思を持つ生粋の武人であった。 上官であった艦隊司令が反乱軍側に付いたため、仕方なくレコン・キスタ側の艦長として革命戦争に参加したのである。 アルビオン伝統のノブレス・オブリージュ……、高貴なものの義務を体現するべく努力する彼にとって、アルビオンは未だ王国なのであった。 彼にとって、クロムウェルは忌むべき王権の簒奪者なのであった。 「これで、『ロイヤル・ソヴリン』号にかなう艦は、ハルケギニアのどこを探しても存在しないでしょうな」 ボーウッドは、間違えたふりをして、この艦の旧名を口にした。その皮肉に気付き、クロムウェルはほほ笑んだ。 「ミスタ・ボーウッド。アルビオンにはもう『王権(ロイヤル・ソヴリン)』は存在しないのだ」 「そうでしたな。しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲をつんでいくとは、下品な示威行為と取られますぞ」 トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に、国賓として初代神聖皇帝兼貴族議会議長のクロムウェルや、神聖アルビオン共和国の閣僚は出席する。 その際の御召艦が、この『レキシントン』号なのであった。その親善訪問に新型の武器をつんで行くなど、砲艦外交ここに極まれり、である。 するとクロムウェルは、何気ない風を装って、つぶやいた。 「ああ、きみには『親善訪問』の概要を説明していなかったな」 「概要?」 また陰謀か、とボーウッドは頭が痛くなった。 クロムウェルは、そっとボーウッドの耳に口を寄せると、二言、三言口にした。 ボーウッドの顔色が変わった。目に見えて、彼は青ざめた。そのくらいクロムウェルが口にした言葉は、ボーウッドにとっての常軌を逸していた。 「バカな! そんな破廉恥な行為、聞いたことも見たこともありませぬ!」 「軍事行動の一環だ」 こともなげに、クロムウェルは呟いた。 「トリステインとは不可侵条約を結んだばかりではありませんか! このアルビオンの長い歴史の中で、他国との条約を破り捨てた歴史は一度たりとて無い!」 激昂してボーウッドは喚いた。 「ミスタ・ボーウッド、これ以上の政治批判は許さぬ。これは議会が決定し、余が承認した事項なのだ、 きみは余と議会の決定に逆らうつもりかな? いつからきみは政治家になった?」 それを言われると、ボーウッドはもう、なにも言えなくなってしまった。 彼にとっての軍人とは物言わぬ剣であり、盾であり、祖国の忠実な番犬であった。誇りある番犬である。 それが政府の……、指揮系統の上位に存在する者の命令ならば、黙って従うより他はない。 「アルビオンは……、ハルケギニア中に恥を晒す事になります。卑劣な条約破りな国として、悪名を轟かすことになりますぞ」 ボーウッドは苦しげにそう言った。 「悪名? ハルケギニアはレコン・キスタの旗の下、一つにまとまるのだ。聖地をエルフどもより取り返した暁には、 そんな些細な外交上のいきさつなど、誰も気にもとめまい」 我慢ならなくなったボーウッドはクロムウェルに詰め寄った。 「条約破りが些細な外交上のいきさつですと? あなたは祖国をも裏切るおつもりか!」 クロムウェルの傍らに控えた一人の男が、すっと杖を突き出して、ボーウッドを制した。 フードに隠れたその顔に、ボーウッドは見覚えがあった。驚いた声でボーウッドは呟いた。 「で、殿下?」 果たしてそれは、討ち死にしたと伝えられる、ウェールズ皇太子の顔であった。 「艦長、かつての上官にも、同じセリフが言えるかな?」 ボーウッドは咄嗟に膝をついた。ウェールズは手を差しだした。その手にボーウッドは接吻する。刹那、青ざめる。その手はまるで氷のように冷たかった。 それからクロムウェルは、共の者を促し、歩き出した。ウェールズも従順にその後に続く。 その場に取り残されたボーウッドは、呆然と立ち尽くした。 あの戦いで死んだはずのウェールズが、生きて動いている。ボーウッドは『水』系統のトライアングルメイジであった。 生物の組成を司る、『水』系統のエキスパートの彼でさえ、死人を蘇らせる魔法の存在など、聞いたことがない。 ならばゴーレムだろうか? いやあの身体にはきちんと生気が流れていた。 『水』系統の使い手だからこそわかる、生前の、懐かしいウェールズの体内の水の流れが……。 なんにせよ、未知の魔法に違いない。そして、あのクロムウェルはそれを操るのだ。かれはまことしやかに流れている噂を思い出し、身震いした。 神聖皇帝クロムウェルは、『虚無』を操る、と……。 ならば、あれが『虚無』なのか? ……伝説の『零』の系統。 ボーウッドは震える声で呟いた。 「……あいつは、ハルケギニアをどうしようというのだ」 呆然と立ち尽くすボーウッドに、一人の整備兵が駆け寄り、敬礼をする。 「サー。報告いたします、『レキシントン』号、物資の搬入が完了いたしました」 「あ、ああ……ご苦労だった」 その声に我に返ったボーウッドは、声の震えを隠す様に眉間を指で抑えながら答えた。 その弱弱しい艦長の様子に、整備兵は心配そうに首を傾げた。 「どうかなされましたか? 顔色が優れないようですが……」 「いや……少し疲れただけだ。ぼくは少し休む、最終点検が済み次第、きみたちも休むといい」 「アイ・サー」 整備兵は敬礼をすると、踵を返し、持ち場へと戻って行く。 ボーウッドはそんな彼を見送った後、一つため息を吐き、自身も一旦休息を取るべく歩き出した。 貨物区画を抜け、資材置き場に差しかかる。 いつものこととはいえ、まるで迷路だ。と背丈よりも高く積み上げられた資材を見て、ボーウッドが一人ごちた、その時であった。 ぞくり、とボーウッドの背中に悪寒が走った、杖に手をかけ振り返ったその刹那、 「むごっ――っ!?」 いつの間に背後に立っていたのであろうか、フードを目深に被った、白のローブに身を包んだ男に口を塞がれる。 ボーウッドの表情が驚愕に歪む、その一瞬の隙を逃さず、エツィオはボーウッドの手から杖を奪い取ると、 ぐいとボーウッドの顎をつかみ、袋小路となっている場所へと引きずり込むと、肘や膝を様々な急所に叩きこんだ。 堪らずボーウッドはがくりと膝をついた。 「ぐ……お……」 エツィオは、地面に倒れ伏し苦悶の声をあげるボーウッドの胸倉をつかんで無理やり立ち上がらせると、 資材の壁に叩きつけ、喉元にアサシンブレードを滑り込ませた。 「ぐっ……! き、きみは……」 叩きつけられたせいか、朦朧とする意識の中、ボーウッドはエツィオの肩にかかった王家のマントを見て、絞りだすような声で呻いた。 「そのマント……、そうか……きみが『死神』……、なるほど、とうとうぼくの所に来たというわけだ」 手配書通りのアサシンの姿にボーウッドは得心したようだ、それからフードの中のエツィオの顔を見て、少し驚いたように呟いた。 「随分と若いのだな……。まあいい、殺す前に一つだけ教えてくれ、きみは一体何者だ? 王家の人間ではあるまい」 「そうだ、俺は王家の人間でもなければ、王党派でもない」 「王党派ではないなら、きみは一体……」 「アルビオンが、友の愛したこの国がこれ以上辱められるのを、看過するわけにはいかない」 「そうか……ならば殺すがいい。ぼくは……仕方がなかったとはいえ、王家を裏切り、同胞をこの手に掛けてしまった。 戦に勝ったとはいえ、ぼくは薄汚い裏切り者だ……。そして今、ぼくはこの愛する祖国を、更に辱め、地獄に突き落すところだった。 これ以上あの簒奪者に手を貸す位ならば、今ここできみに首を切り裂かれ、地獄に堕ちた方が幾分かマシというものだ」 死を前にしたボーウッドは全てを吐露すると、安堵の表情を浮かべ肩の力を抜いた。 エツィオはそんなボーウッドの胸倉を強く締めあげ詰問する。 「その前に答えてもらおう、新兵器とやらの設計図はどこだ」 「……それなら『ロイヤル・ソヴリン』……いや、今は『レキシントン』号か、その中にある」 「実物は?」 「実物だと? そんなことを聞いてどうするつも――がっ!?」 ボーウッドの鼻にエツィオの頭突きが突き刺さる。 鼻骨を折られ、激痛に顔を歪ませるボーウッドに、エツィオは冷たい表情のまま尋ねた。 「質問に答えろ」 「ぐっ……、き、きみの望む物は全てあの『レキシントン』号にある、製造された実物はそれで全てだっ……」 「わかった、……最後の質問だ、先ほどお前に杖を突きつけたフードの男、あれは誰だ」 「それはっ……」 その質問に、ボーウッドの顔が青くなった。まるで信じがたい物を見てしまったと言わんばかりの表情だ。 ボーウッドは震える声で自分が見た物をエツィオに説明した。 「あれは……殿下だった。ウェールズ・テューダー皇太子殿下……」 「殿下だって?」 「そうだ、あれは決してゴーレムなどそういうものではない、ぼくは『水』の使い手だ、だからこそわかるのだ、あの方は殿下その人だと」 それを聞いたエツィオはやや驚いた表情になった。眉を顰め、情報を整理する。 クロムウェルの指に光っていた魔力を帯びた指輪、ウェールズの身体を覆っていたそれと同質の魔力。 そして、クロムウェルの死者を蘇らせる『虚無』 瞬間、エツィオの中で点と点が繋がった。 「そうか……そういうことか」 「もう一発殴られる物と覚悟したが……信じるのかね?」 何やら納得した様子のエツィオに、ボーウッドは戸惑ったように首を傾げる。 エツィオは唇をかみしめると、やがて皮肉と憐れみが混じった笑みを浮かべた。 「ああ、おかげで奴の『虚無』の正体がわかった。……とんだペテン師だな、あの男は」 「ペテンだと? 一体それはどういう……!」 エツィオの言葉に、ボーウッドの顔色が変わった。 まさか、殿下を蘇らせた力は、『虚無』ではないとでもいうのか。 だがエツィオは、小さく首を振ると、ボーウッドの喉元にアサシンブレードを突きつけた。 「お前にとって、この事実は残酷な物だ、聞かずに逝った方がまだ救いがある」 「待て! 待ってくれ! 教えてくれ! 奴は一体何者だ! ペテンとはなんだ! もし、奴の虚無がペテンだとしたら! ぼくは……! ぼくはっ……! 一体何のために……!」 「……いいだろう」 エツィオはアサシンブレードを納めると、ボーウッドを突きとばした。 今まで締めあげられていたせいか、解放された後もしばらく咳き込んでいたボーウッドだったが、 やがて落ち着きを取り戻したのか、エツィオをまっすぐに見据えた。 「お前は先ほど、クロムウェルと謁見していたが、その時、奴は右手に指輪を嵌めていたことに気がついたか?」 「指輪? あ、ああ、細かくは見てはいないが……していたように思う」 「その指輪が奴の『虚無』の正体だ、奴自身、なんの力も持たぬただの平民に過ぎない」 「なっ、なんだと!? ど、どこにそんな証拠が!」 「俺にしかわからないことだ、殿下の死体を動かしている力は、奴が身につけている指輪の持つ力と全く同じ物だ」 激昂するボーウッドに、エツィオは淡々と言葉をつづけた。 「馬鹿な! 死者を動かす指輪だと? そんなもの、伝説の中にしか存在しないのだぞ!」 「クロムウェルが掲げる『虚無』とやらも伝説のようだが?」 「っ……! そ、それ……は……」 「伝説のマジックアイテム……、長い間姿を現すことのなかった虚無の担い手が突然現れるより、信憑性は高いんじゃないのか?」 「…………」 エツィオの話術に嵌まってしまったボーウッドは言葉を失ってしまった。 そのままへなへなと脱力し、地面にへたりこむ。 「騙されていたのか……? 我々は……」 ボーウッドは俯き、地面に拳を打ちつけると、絞り出すような声で呻いた。 「なにが……軍人は物言わぬ剣だ……なにが誇りある番犬だ……。 ぼくのやったことは、操られるがままに主人の首を噛みきっただけじゃないか……」 呆然とした表情で呟くボーウッドを見て、エツィオは持っていた杖を投げ捨てるとくるりと踵を返した。 それに気がついたボーウッドは驚いたように顔を上げた。 「ま、待て! ぼくを……殺さないのか?」 「悔いている人間を殺すほど、俺は傲慢じゃない。それに、俺がここにいる目的は、奴の手で歪んだ『王権(ロイヤル・ソヴリン)』ただ一つだ」 「この杖できみを攻撃するとは思わないのか?」 「その時は、改めてお前を殺すだけだ。……衛兵を呼びたければ好きにしろ」 冷たく言い放つエツィオを見て、ボーウッドはゆっくりと立ち上がると、服についた埃をはたき落し、力なく微笑んだ。 「いや……ぼくは何も見なかった、何もないところで転んでしまうとは、……軍人失格だな」 「……感謝する、サー」 「待ちたまえ」 振り返らずに立ち去ろうとしたエツィオをボーウッドが呼び止める。 「『ロイヤル・ソヴリン』を葬るなら、今が好機だ。明日、大規模な演習がある。 そのために、あの艦には今、大量の火薬と弾薬が積載されている。それを利用すればあるいは……」 「……なぜそれを俺に?」 「なぜかな……、自分でもよくわからない。せめてもの償い……いや、これで許される筈もないのだがな……。 きみの話が本当なら、もはやこの国に、『レコン・キスタ』に未来はない……ぼくは、どうすればいいのだろうか……」 自嘲的な笑みを浮かべ、悲しそうに呟くボーウッドに、エツィオは振り返る。 「ならば、亡命をする気はないか?」 「亡命?」 「お前は、『親善訪問』に難色を示していたな」 「あ、ああ、条約破りなど、恥知らずもいいところだ……」 「軍属のお前が亡命しトリステインに知らせれば、奴の企みは大きく躓く事になる」 エツィオのその言葉に、ボーウッドは少しだけ迷ったような表情になった。 自分は誇りあるアルビオン軍人だ、亡命などあってはならないことだ。と、少し前の自分ならそう言っていただろう。 しかし、今は違う。アルビオンの王位を簒奪し己の意のままに操っているのは、虚無を騙るペテン師だ、 そんな者にこれ以上肩入れすること自体、アルビオンを裏切ることになるのではないか。 そう考えたボーウッドは、顔を上げると力強く頷いた。 「わかった、その申し出を受けよう。これ以上あの簒奪者に仕えるのは、もう我慢ならない」 「協力感謝する、サー・ボーウッド」 エツィオとボーウッドは固く手を結んだ。 「亡命手段はこちらで用意しよう、それまで連絡を待て」 「わかった。それよりも急ぎたまえ、今は兵達の休憩時間だ、今なら警備が手薄なはずだ」 「ありがとう。サー、貴方も今すぐここから離れることだ、もうすぐここは灰になる」 「そうさせてもらうよ。……アサシンであるきみに、こんなことを尋ねるのは変な話なのだが……よければ、きみの名前を教えてくれないか?」 ボーウッドは頷くと、踵を返し『レキシントン』号に向かおうとするエツィオに尋ねた。 「エツィオ・アウディトーレ」 立ち止まり、振り返らずにエツィオは名乗りを上げる。 ボーウッドはにっこりと笑みを浮かべ、頷いた。 「エツィオ……なるほど『鷲』か、この空の国(アルビオン)を駆けるに相応しい、よい名だ。我が胸に秘めておこう。 ……頼む、エツィオ・アウディトーレ。奴の歪んだ『ロイヤル・ソヴリン』を葬ってくれ」 真剣な表情で語りかけるボーウッドに、エツィオは小さく頷くと、『レキシントン』号に向かい、歩を進めてゆく。 その姿を見送ったボーウッドは、杖を拾い上げると、自身に『治癒』の呪文を唱え、顔の傷を癒すと、 腕に付いた『レコン・キスタ』の一員で示すことを表す腕章をむしり取り、兵器工廠を後にした。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/cvssyourimessage/pages/176.html
ロイ・ブロムウェル 《出典作:ジャスティス学園シリーズ》 VS. 対アドン【ストシリーズ:CAPCOM】 「この程度でムエタイの神だなんて、笑えないジョークもあったもんだな!お前なんかジャガーどころかキャットがいい所だぜ!」 ※投稿・肥後守 対いろは【サムスピシリーズ:SNK】 「ジャパニーズ・メイド・カフェってヤツか…アメリカにもファンは大勢居るが、ボクには日本のOTAKU文化というのはドウモ理解に苦しむな…!」 ※投稿・管理人 対エドモンド・本田【ストシリーズ:CAPCOM】 「Hey!オオゼキ!スモウならワールドワイドにしてやるさ!ボクらアメリカ人がヨコヅナになってな!」 ※投稿・管理人 対ガイル【ストシリーズ:CAPCOM】 「ボクが将来大統領になったらアンタ達のような職業が無くなるように努めるつもりさ!今の内に身の振り方でも考えておくと良い!」 ※投稿・管理人 対ギース・ハワード【餓狼伝説シリーズ:SNK】 「小悪党が…ボクが政界へと乗り出すコケラ落としに退治させてもらったぜ!ちゃんとカンオケは用意してあるんだろうな!?」 ※投稿・管理人 対キャプテン・アメリカ【マーヴルVSシリーズ:CAPCOM】 「いい加減コスチュームデザインを改めるべきだと思うな。」 ※投稿・kdkz 対草薙京【KOFシリーズ:SNK】 「日本最強チームのリーダーが聞いて呆れるぜ!バツ達の方がずっと張り合いあるってものさ!」 ※投稿・管理人 対狂オシキ鬼【ストⅣシリーズ:CAPCOM】 「何とか…勝つことが出来たみたいだな…。まさか、こんな想像以上に恐ろしいモンスターと闘う事になろうとはな…」 ※投稿・acrysion 対ケン・マスターズ【ストシリーズ:CAPCOM】 「全米代表がハイスクール相手にこのザマは無いだろう?…ステイツの恥になるような無様な姿は晒さないで欲しいな」 ※投稿・管理人 対源柳斎マキ【ファイナルファイト2:CAPCOM】 「女の子はおしとやかな方が可愛いぜ?」 ※投稿・管理人 対コーディー【ストシリーズ:CAPCOM】 「…ゲラウト!アッチへ行ってろ…!お前みたいのと関わり合いがあると思われると、ボクの素行が疑われる」 ※投稿・管理人 対神人・豪鬼【カプエス2:CAPCOM】 「…もし太平洋戦争で、ユーのようなジャパニーズが100人…いや、10人も居たら……その力、認めたくないものだな…」 ※投稿・管理人 対ソドム【ファイナルファイトシリーズ:CAPCOM】 「…ヤレヤレ、ティファニー以上にニホンゴを勘違いしてるな…。やはり最もポピュラーなイングリッシュこそ地球語にふさわしい!」 ※投稿・管理人 対テリー・ボガード【餓狼伝説シリーズ:SNK】 「……フッ、餓狼ね。ハングリー精神だけじゃ越えられない壁って奴を、少しは理解できたかな?」 ※投稿・管理人 対ブライアン・バトラー【KOFシリーズ:SNK】 「覚えたての格闘戦じゃ分が悪かったか?なんなら今度はアメフトで勝負してやってもいいんだぜ!?」 ※投稿・管理人 対ベガ【ストシリーズ:CAPCOM】 「アメリカンヒーローを気取る訳じゃないが…お前のような薄汚い悪党は生理的に受け付けないのさ!」 ※投稿・管理人 対ホー・ファイ【闘神伝2(AC版):CAPCOM】 「薄汚いSerial Killerめ!次はこんなもので済むと思うなよ!」 ※投稿・肥後守 対マイク・バイソン【ストシリーズ:CAPCOM】 「チッ…!汚い返り血で服が汚れたな…何気なく見えてどれもブランド品だぜ?アンタに弁償できるのかい?」 ※投稿・管理人 対山崎竜二【餓狼伝説シリーズ:SNK】 「全く…ジャパニーズって奴は姑息な手しか使えないのか?ボクの祖父を不意打ちした、パール・ハーバーでもそうだった!」 ※投稿・管理人 対ヤン【ストシリーズ:CAPCOM】 「おやおや?ボクの動きが読み切れてるんじゃなかったのかい?」 ※投稿・acrysion 対リョウ・サカザキ【龍虎の拳シリーズ:SNK】 「納豆なんて意味不明な物を食しているから弱くなるのさ!コーラとハンバーガーとピザに切り替えるのを奨めるよ!」 ※投稿・管理人 対ルーファス【ストⅣシリーズ:CAPCOM】 「だから、何度も言った筈だぞ!ロイ・ブロムウェルだって!!…はぁ~…まったく。勘違いもいい加減にしてくれよ…」 ※投稿・acrysion 対ルガール・バーンシュタイン【KOFシリーズ:SNK】 「九郎が可愛く見える程にCrazyだな・・・。お前みたいな奴は早めに倒させてもらうぜ!」 ※投稿・肥後守 対ロック・ハワード【餓狼MOW:SNK】 「…無様だな…負け犬って奴は」 ※投稿・管理人 対若葉ひなた【ジャスティス学園シリーズ:CAPCOM】 「バツに伝えて置いてくれ!来年の太P戦はボクを倒さない限り勝てないってな!」 ※投稿・管理人 &.
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7375.html
前ページ次ページ虚無と最後の希望 level-17「思想」 「力? 君達レコン・キスタは聖地奪還を目指しているのではないのかね」 「聖地などどうでも良いのです、力を手に入れなければならないのです」 聖地奪還を掲げるレコン・キスタに参加している子爵。 ならば同じ様に聖地奪還を掲げているのではないのか? メイジにとって始祖ブリミルは絶対的なもの、間違っても聖地などどうでも良いとは言えないはず。 「聖地奪還がどうでも良いとは、子爵が求める力はなんだと……」 「虚無です」 そう子爵は、ラ・ヴァリエール嬢を見て言い切った。 その視線にラ・ヴァリエール嬢は狼狽、声を上げた。 「虚無……、始祖が使っていたと言われる伝説の?」 「彼女はその使い手なのです」 「……まさか、そんな力無いわ!」 「あるんだ、君が系統魔法を使えないのが証拠だ」 「どういう事だね?」 「……クロムウェルから聞いた話によれば、虚無の使い手は皆まともに魔法が使えないらしいのです」 貴族に生まれたからには、絶対に魔法が使えるはず。 ならば上手く使えない理由は何か、普通に考えればその理由など思いつかないだろう。 途絶えた虚無、虚無ゆえに系統属性が使えぬとなると……。 「……だから連れ去ろうとしたのかね」 「いいえ、彼女にはトリステインへと戻ってもらいます」 「なに? 子爵は無理やりにでも彼女を手に入れるのではなかったのかね」 「私が力を手に入れても、何の意味もありません。 彼女は彼女として、誇り高きトリステインのメイジとして、王と国の力になって欲しいのです」 「ならば何故裏切った、王と国のためと言いながらもこのような事を」 「……皇太子殿下、我が祖国であるトリステインの実情をご存知ですか?」 「いや、詳しくは知らないが……」 語りだした時と同じ様に、悲観した声が子爵の口から漏れる。 「アンリエッタ姫殿下のお父上である先王陛下がお亡くなり、今のトリステインは王を戴いておりません」 「ああ」 「なれば、次代の王で在らせられるのはマリアンヌ大后様か、先王の御息女であるアンリエッタ姫殿下で御座います」 「確かに」 「ですが、王宮は元より地方の下に位置する貴族であっても……、御二方を敬っては居られないのです!」 荒々しく、悔しさを露にして声を荒げる子爵。 「皆が世間を知らぬ大后様と、無知な王女様と影で罵っておられる! それだけに飽き足らず、己の私腹を肥やすために与えられた職で不正を行う! どこが貴族か! あのような見ることすら不愉快な屑どもに、これ以上国を荒らして貰いたくは無いのですッ!!」 最後には怒声、溢れんばかりの怒り。 その怒りで顔が歪み、感情を露にしている。 「王が王たる、先々代の王フィリップ三世のような、貴族達が自然に傅く様な力が。 国外にもその威光が通じるほどの、大きな力が必要なのです!」 「その為に力を求めるのか」 「そうです、レコン・キスタに狙われている今こそ、強大な力が王の元に必要なのです」 子爵が言っているのは抑止力と言う意味か。 「攻撃を始める前に、クロムウェルから命じられた事をお覚えに?」 「……僕の命と、手紙と、ラ・ヴァリエール嬢の身柄の確保、だったかね?」 「はい、非常に心苦しく言い難いのですが。 ……既に崩壊していると言っても過言ではないアルビオン、崩壊に導いたクロムウェルの傍に居るには何らかの手柄が必要だったのです」 「そうか、手紙やラ・ヴァリエール嬢の身柄を確保できなくとも、最悪僕を殺しておけば……」 クロムウェルの懐と言う一番深い位置、一番邪魔であろう王族を殺せたとなれば潜り込めるのも可能、か。 「……近づけた後はどうするつもりだったのだ?」 「目的のために奴は必ずやトリステインに牙を剥くでしょう」 潜り込んだ後に暗殺か。 自分の命令により他国とは言え敬うべき王族を殺しをした者が、自分に杖を向けてくるとは思いもしないだろうな。 「……手紙やラ・ヴァリエール嬢はどうしたと言うのかね?」 「手紙はその場で処分、ルイズには身を隠してもらい、秘密裏にトリステインに戻ってもらう予定でした」 「……そうか」 「私には体の良い言い訳にしか聞こえないけど」 僕とワルドの会話に割って入る声がひとつ。 気が付けば長い赤毛の、褐色の女性が立っていた。 「キュルケ! いつの間に……」 「さっきから居たわよ? ルイズが虚無ってあたりから聞いてたけど」 見れば床に穴が空いており、そこからまた一人と誰かが這い上がってくる。 「ふぅ、やっと外にって。 何でチーフは子爵を踏みつけてるんだい?」 金髪の、薔薇を持った少年と。 「もう最悪、何でこんなとこに一日も居なきゃいけないのよ」 と金髪縦ロールの少女が穴から出てきた。 「あんた達、無事だったのね」 「ルイズ? ここってどこなのよ?」 「ニューカッスル城の礼拝堂よ」 「流石はヴェルダンデ、ぴったりだ!」 「はいはい、今はそんな話してる場合じゃないの。 ウェールズ皇太子殿下とお見受けしますわ、ゲルマニアのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申しますの」 ツェルプストーと名乗った少女、それに続きグラモンとモンモランシと後に国柄の礼式で名乗る。 「僕はこのアルビオンの皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 貴族に名乗られれば、名乗り返すのが礼儀。 お互いに礼を済ませ、ツェルプストー嬢が言葉の続きを話し始める。 「子爵が裏切り者で、ダーリンに打ちのめされたんでしょう? で、このままじゃ命が危ないから、以前からか即興か、どちらかは分からないけど作った言い訳で皆の良心を引き出し国思いの貴族に、と言う風にしか見えませんわ」 「皇太子殿下もそうお思いになられるのでしたら、今この場で私の命をお断ちになってください。 我が身が王や国の為にならないのでしたら、存在する意味がありませんので」 「随分と思い切った事を仰るのね、まぁ魔法で多少甚振れば本性が出るでしょうが」 「両の手足を切り落とされようが、目玉を刳り貫かれ焼き潰されようとも、我が思いは変わりはしない」 「試してみましょうか?」 「好きなだけ試すが良い」 薄ら笑いのツェルプストー嬢が杖先から炎を浮かべ、向けられようとも平然と受け答えする子爵。 「待ちなさいよ! キュルケは関係ないんだから、少し黙ってて!」 「そんな言い方無いでしょ、こうやって脱出のルート作ってきたんだから」 「うっ……」 ふふん、とキュルケが笑みを作り、ルイズは悔しそうに息を詰まらせた。 「いや、そこまでする必要は無い。 子爵、最後に一つ聞きたい」 「何なりと」 「レコン・キスタは本当に聖地奪還を目的としているのか?」 「はい、国の統一を成し遂げ総力を挙げてエルフを駆逐する。 クロムウェルは本気でそう考えております」 「出来ると思うかね?」 「無理でしょう、アルビオンを落とし、トリステインをも手中に収めようとも、ガリアやロマリアによって簡単に瓦解する可能性があります」 「……国力と信仰か」 国土に見合う強大な軍事力と、ハルケギニアの総人口の9割以上とも言われるブリミル教徒。 軍事的圧力による外部からの崩壊と、教皇猊下の一言での内部からの崩壊。 どちらをとっても抗うのが厳しい、国家統一を成し遂げるには大きすぎる壁。 前者はトリステインを取り込み合わせても、国土の差は倍以上、かなり厳しいものになるだろう。 後者は暴挙的なクロムウェルに対し、ブリミル教徒としてふさわしくない異端認定を受けるかもしれない。 「クロムウェルはそれを理解していません、単なる夢想家……だったのなら良かったのですが」 「何かあるのかね?」 少しずつだが子爵の顔が青くなってきていた。 今更ながら、床の広がる赤い水溜りに気が付いた。 「これ以上は危険だな、治癒が使えるものは手伝ってくれ」 その言葉を機に、タバサ嬢とモンモランシ嬢が杖を取り子爵に治癒を掛け始める。 無論、チーフ殿には変わらず押さえつけて貰う。 怪我が簡単に塞がらないので、モンモランシー嬢が持ってきていた秘薬まで使い治療、そうして怪我を治した。 傷が塞がり、話せる状態に戻ると、子爵がゆっくりと語りだす。 「……クロムウェルは、虚無の使い手なのです」 「……まさか」 「私はこの目で見たのです、クロムウェルが虚無の魔法と称し……、死んだ者を生き返らせているのを」 その場に居るもの全てが一様に驚く。 「馬鹿な、死んだ者が生き返るなど……」 「私も最初はそう思いました、しかしながら生き返った者はしっかりと会話をこなしていたのです。 私の声にもしっかりと反応して……」 「……何たる事だ、それが本当なら……」 「恐らくは、私に皇太子殿下を殺害させた後に生き返らせ、手駒にするために命じたのでしょう……」 レコン・キスタも完全とは言えない、反抗する勢力、他の貴族達が居るだろうし。 トリステインを攻める前にアルビオンの王族を組み込み、王族も認めたと声高々に宣言でもして押さえるつもりだったのか。 「……つまりは」 「トリステインでも同じ手法を取り、反抗しようとする貴族達を押さえ込むでしょう」 「クッ……、なんと卑劣な」 これが本当なら奴らに死に様を見せ付けられない。 死んでしまえば奴らに利用されるだけではないか! 「皇太子殿下、本当に裏切り者の言葉を信じますの?」 「……信憑性は薄い、だがもし本当だったら取り返しのつかない事になるだろう」 「なら今ここで子爵を処分して、殿下は私達と一緒にトリステインへと向かえばよろしいのでは?」 そうすれば嘘でも本当でも、任務が達成できて殿下も死なずに済むじゃありませんこと? とツェルプストー嬢が言い切る。 「脱出するのでしたら、お早く。 もうすぐレコン・キスタが攻め入ってきます」 そのようなやり取りを気にせず、己の命がもうすぐ終わろうと言うのに先を急がせる。 やはり子爵の言う事は本当か、そう考え迷情。 「子爵、君の行いを他に知っている者は?」 「居ません」 「……単身で画策したと言うのか」 「はい、私の裏切りは同じ裏切り者でも知らないはずです」 「他に裏切り者が居ると言うのか」 「判明している者で10名以上、中には政治の根幹に触れる者さえ居るのです」 「……そこまで手を伸ばしていると言うのか」 「無論、私でも全ての裏切り者を知っている訳では有りません。 迂闊に協力を仰ぎ、私が知らない裏切り者の耳にでも入ったなら……」 トリステインの間諜として処分されかねない、と言う事か。 「ならばマリアンヌ大后様や、アンリエッタ姫に伝えても良かったんではないか」 「……それは、出来ませんでした」 「……知っているのか」 「はい」 アンリエッタなら間違いなく反対するだろう。 叔母上も恐らくは反対する、忠臣である子爵に王族殺しをさせるなどしないはず。 故に誰にも知らせず、反逆と王族殺しの罰を受ける事になると言うのに決断したのか。 「……子爵、君の心は何処にある」 「王と国に」 「……良いだろう、その言葉信じよう」 「随分と寛大ですこと」 「狭量たるのは王族としてあってはならぬ」 「間違いの代償は命ですのに」 「その時は受け入れよう。 チーフ殿、子爵を離してやってくれ」 「本当によろしいのですか」 その問いに頷く。 それを見たチーフ殿は立ち上がり、子爵の拘束を解く。 拘束を解かれた子爵はゆっくりと立ち上がり、軽く衣服の汚れを払い一礼。 「寛大なお心、真に感涙の極みで御座います」 「君が行った事の処分は僕が決めれる事ではない、トリステインへと戻り姫か叔母上の裁きを受けるが良い」 「どのような決定であろうとも、甘んじて受ける所存で御座いますが……」 歯切れの悪い言葉。 「……何をする気だね」 「ここに残りクロムウェルを討つ心算で御座います」 「出来るのかね? 手柄を何一つ持たず戻っても受け入れられまい」 「皇太子殿下を殺したと口先だけ伝えれば、クロムウェルなら信じましょう」 「なるほど、口頭の際に討つか」 「はい」 直接伝えたいと言えば、付いてくるか? 「信じると言った手前、それを認めたいのだが……」 「お認めください、クロムウェルを討ち、少しでも軍備を整える時間を……」 「……正直に言えば子爵を一人行かせたくは無い」 「当たり前ですわね」 ツェルプストー嬢がフンと鼻息を鳴らし、ラ・ヴァリエール嬢はそれを睨むように見ていた。 タバサ嬢はチーフ殿の隣に立ち、右手で竜の鼻先を撫でていた。 残りの二人、グラモン殿とモンモランシー嬢はその話を聞いて驚いていた。 「ならば自分が残ります」 「チーフ!?」 「……チーフ殿、よろしいのか」 「はい」 子爵を打倒した彼が監視に付くと言うなら、本当に裏切っていたとしても打ち倒せるか。 「ラ・ヴァリエール嬢、チーフ殿をお借りしてもよろしいか?」 「………」 そう言って見たラ・ヴァリエール嬢はチーフ殿と私を交互に見つめ。 「無事に戻ってくると約束してもらえるなら」 「約束しよう」 「すまない、ラ・ヴァリエール嬢。 チーフ殿をお借りする」 「……いえ」 「では二人とも」 「はっ」 子爵は一礼し、チーフ殿は頷く。 そうして脱出する者と残る者に別れた。 「……さぁ、行こうか」 外から聞こえる音、父上や家臣たちへの裏切りとなるだろうか。 いや、なるだろうな。 華々しく散り様を見せ付けると豪語していたのに、こうやって逃げ出そうとしている。 「……殿下、彼の者達なら喜んで殿下のために時間を稼ぎましょう」 「本当にそう思うかね?」 「逆にお聞きします、本当に彼の者たちが一緒に散って欲しいとお考えで?」 「……どうだろうな」 こんな私を見て父上はなんと思うだろうか、パリーならば何と言うだろうか。 今も城で戦っている臣下たちは、本当に喜んで時間を稼いでくれるのだろうか。 「……殿下、彼らの忠義を心に刻み付けるようお願い申し上げます」 「ああ、忘れぬよ」 忘れてなるものか。 報いるために刻みつけ、王権復興を成し遂げる。 そう強く思い、ラ・ヴァリエール嬢へと顔を向けた。 「ラ・ヴァリエール嬢、昨晩の返答を撤回させてもらうよ。 僕はトリステインへと亡命する、……死んで名誉を示せない情けない僕だが、受け入れてくれるだろうか」 「勿論でございます!」 「……ありがとう」 そうした会話が終わると、嫌でも争いの音が大きくなっていく。 もうすぐこの礼拝堂までレコン・キスタが攻めてくるだろう。 「……ルイズ、怖い思いをさせてすまない」 「貴方が裏切っていないなら、水に流すわ」 「ありがとう、気をつけて帰るんだよ」 「……そこまで子供じゃないわよ。 ……チーフ、気をつけて」 「ああ」 そう言って穴に入り込んで、姿が見えなくなる。 「子爵、無事に帰ってくるんだ。 君は大変な事を仕出かしたのだから」 「勿論五体満足で帰り、裁きを受ける所存です」 子爵の応えに頷き、チーフ殿を見る 「……チーフ殿、後を頼みます」 「はい」 「まずは穴を塞ぐとしよう」 全員が穴に入り込んだ後、周囲を見渡す。 穴を塞げそうな物を探すが。 「……天井を落とせば良い」 ガンダールヴからそう言われ、天井を見る。 なるほど、天井を落として瓦礫だらけにすればすぐに皇太子を殺したと言う嘘がばれないだろう。 「……ガンダールヴ、僕が皆を裏切っていると判断した時はすぐにでも処分してもらって良い」 天井から視界を落とし、弾き落とされたレイピアを拾い上げる。 「……マスターチーフ、そう呼ばれている」 ウインド・ブレイクを唱え、天井に向けて打ち放つ。 風の突風が天井にぶち当たり、天井を支える支柱に大きな亀裂を入れた。 さらにもう一発、そうして支柱が耐えられなくなりミシミシと大きな音を立て始めた。 「……すまない、僕の我がままに付き合ってくれ。 マスターチーフ」 天井が落ち、崩壊する礼拝堂から二人抜け出した。 前ページ次ページ虚無と最後の希望
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4764.html
前ページ次ページもう一人の『左手』 . 「え……?」 少女は耳を疑った。 あの竜騎士は、確かにいま自分の名を呼んだ? ルイズ、と叫んだ? そんなバカな? 貴族派の竜騎士が何故自分の名を呼ぶ? いや、疑ったのは自分の耳だけではない。目もだ。 爆光の中、彼女は確かに見た。 爆発のあおりを食らったドラゴンの鞍から、宙に弾き出された少年。たすきがけに背負った一本の長剣。メイジであるはずの竜騎士にもかかわらず、杖を持たず剣をたばさむ? まあ、それはいい。ワルドのようにサーベル状の杖を持つメイジもいる。 だが、彼が着ていた衣服はどう考えても軍服ではなかった。後頭部にフードをつけた、青と白のツートンカラーの上着。 ルイズは知っていた。 彼女がよく知る少年も、同じような衣服を着衣として使用している事を。 そして、その着衣は、ハルケギニアには存在しない素材と製法で作られた、類似品さえ在り得ないシロモノであるということを。いや、そもそも、さっきの叫び声すらが、間違えようもないほどに聞き覚えがある人物の声である事を。 (サイト……!?) しかし、記憶と直感を理性が否定する。 あの使い魔の少年が、ここにいるわけがない。 いわんや、貴族派の竜騎士のドラゴンに何故、自分の使い魔が乗っている? そもそも馬さえ乗れないアイツが、あんな巨大な風竜を乗りこなす? そんなこと在り得るわけがない。 なら、今のは何!? ――決まっている、空耳だ。それと幻覚。もしくは錯覚。そうに決まっている。ありえない場所でありえない人物を見て、ありえない声を聞いた。それが現実であるはずがない!! 彼女――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの脳漿が、その結論を導くのに費やした時間は、おそらく2秒にも満たなかったであろう。なぜなら、その2秒後には、ふたたび事態は動き出していたからだ。 脳にはしる混乱を落ち着かせようと頭を振り、再度、夜空に目をやったルイズの視界に飛び込んできたのは、さらなる竜騎士の遠影。だが、その背に騎乗していたのは、数日振りに見る級友たち――。 「キュルケ……タバサ……それにあれは……ギーシュ……!?」 そして、その後続のドラゴンに騎乗する黒髪の男。 「……カザミ……ッッッッ!?」 「なに!? 一体何が起こったんですの!? 何故あの国賊のフネは爆発を!?」 「って言うより、自爆じゃない!?」 「陛下、一体これは……!?」 「決まっておろう! 王に逆らいし国賊どもに、始祖ブリミルが怒りの稲妻を下しなさったのじゃ!! すなわち、天は我とともに在りという事じゃッッ!!」 背後でジェームズたちが何か勝手な事を言っているが、ルイズは彼らを振り向きもしない。客観的に見れば、先程の『レコン・キスタ』の戦列艦は、確かに突然、謎の自爆を遂げたように見えても仕方がないからだ。 ならば、かくいうルイズ本人は、事態の真実を把握しているのかと問われれば、それもかなり疑わしい。 さっきのフネが起こした大爆発は、自分の呪文の結果である事。それは間違いない。 そして、その呪文は、始祖のオルゴールから聞こえてきた“声”に導かれて唱えたものであることも、間違いはない。更に言えば、その“声”の所有者は、オルゴールを後世に遺した当の本人・始祖ブリミルであろうことも。 ――ならば今の呪文は、始祖の系統“虚無”なのか? ルイズには分からない。 確かに、先程自分の唱えた呪文は、追っ手を爆発させ、絶体絶命の危機を回避させた。 だが、……自分の呪文が爆発を起こすのは、いつもの事ではないか? その威力は、自分が日常的に起こしている『失敗呪文』の比ではなかったとはいえ、それでも結果に於いて爆発という見慣れた光景を現出したのは間違いない。 . ルイズには分からない。いや、もう考えられない。 頭脳を働かせようと、懸命になればなるほど、血の巡りは鈍くなる一方だ。 原因は分かっている。さっきの少年兵。――彼の持っていた剣、彼の着ていた服、彼の叫んだ声、そして彼が呼んだ自分の名。あれは錯覚で空耳だ。そう理性が断定しようとすればするほど、彼女の無意識下に押し込められた自我が抵抗する。 ――やっぱりあれは、サイトだったんじゃないの……? 違う! 違う!! そんな事はない! 在り得ないっ!! 馬にも乗れないアイツが、竜に乗れるわけがないとか、それ以前の話よっ!! わたしとアイツは喧嘩してるのよっ!? 二度と顔を見せないでって言ったのよ!? そんな勝手なわたしをアイツがわざわざアルビオンくんだりまで会いに来るなんて、そんな事があるわけないっ!! そうよ、サイトはいないわ! アイツはいないのよ!! 「なっ、なんじゃああ~~~~~ッッッ!?」 「『レコン・キスタ』よっ、『レコン・キスタ』の竜騎士が、また来たわっ!!」 「みなさんっ、杖を取りましょう!! 及ばずながら、私たちだけでも陛下を守りましょう!!」 「ええっ!?『たたかう』って伯爵夫人、ワタクシたちがですのっ!?」 「何を仰ってるんですっ!! 当たり前でございましょうっ!!」 なにやら背後が騒がしい。 ジェームズと、その取り巻きの女官や貴婦人たちが、また恐慌に陥っているらしい。 「ルイズっ!!」 聞き覚えのある声――クラスメートのギーシュ・ド・グラモンの声。 ルイズは顔を上げた。 羽音が聞こえるほどまで近くに、二騎の竜騎士が接近している。 戦うも何も、こんなに接近されてしまえば、手の施しようがないではないか。杖を取るまでもなく、ドラゴンのブレス一発で黒コゲにされるのがオチだ。 ――まあ、その鞍上にあるのが、顔見知りの少年少女たちでなければ、自分ももう少し、泡を食っていたかもしれないが。 「ギーシュ、頭が高いわよっっ!!」 久しぶりに見る金髪の級友。その端整な顔が、一瞬キョトンとなる。 いや、彼だけではない。彼とともにいるタバサは少し眉をひそめ、キュルケも「え? 何言ってるのコイツ?」と言わんばかりの怪訝な表情をこっちに向けた。 その彼らの視線が、余りにもあからさまだったので、さすがに気分を害したルイズは思わず声を荒げる。 「この御方は、アルビオン国王ジェームズ・テューダー陛下よ!! 知らぬ事とはいえ無礼は許されないわ! 貴族ならば作法に乗っ取った礼を尽くしなさいっ!!」 変わらず無表情なタバサはともかく、金髪の少年と赤毛の少女は飛び上がらんばかりに驚き、三人は『フライ』で小型艇に乗り移ると、次々と老人の眼前で膝を着き、無礼の詫びと名乗りをあげた。 「この三人は敵ではありません。皆わたしの級友でございます」 やや困惑したような王は、しかし、安心した表情を浮かべると、 「大儀であった」 と、鷹揚に言葉をかけ、そのさらに背後――いまだドラゴンの背から降りようともしない黒革の上下を身に纏った男へと視線を向けた。 「頭が高いわ“ブイスリー”ッッ!! 王の御前と知っての事かッッ!!」 唖然とした表情の三人を放置して、後方にいる風見に一喝するジェームズ。だが、ルイズはニューカッスル城にいるときから、最前線で戦闘をしていた改造人間を、この老王が毛嫌いしていた事実を知っているため、さすがに慌てた。 「へっ、陛下、違いますっ!! あの者はニューカッスルにいた“ブイスリー”ではなく、わたしの使い魔めにございま――」 「アルビオン王国のジェームズ1世国王陛下でございますな」 . 彼女も知る、風見志郎の錆びたアルトヴォイス。 思わず振り向くルイズだが、不遜という枠にさえ収まり切らない冷徹な彼の視線は、その場にいた全員から声を奪った。 彼の視線や声音に含まれる威圧感。 ルイズは知っている。 その不躾さは、風見志郎という男が身に纏う、体臭のようなものに過ぎないということを。 だが、主であるはずの自分でさえ、数日振りに味わえば、やはりその剣呑さに息を呑まざるを得ない。いわんや、唯々諾々と顔を俯けて王の罵倒を聞くだけだった“ブイスリー”しか知らないジェームズにとっては、言うまでもない。 だが、二人は気付いていない。 ここにいる風見志郎は、ルイズの知る“使い魔”とも、ジェームズの知る“王党派の赤い悪魔”とも違う、全くの別人である事を。 彼が何者かを知るのは、風見と行動をともにしていた三人の学生たちだけであったが、彼らが状況に口を挟める空気では、勿論なかった。 風見は散歩にでも行くような飄然とした態度で、ふらりと小型艇に飛び移る。“風”のメイジと見紛う程の、まるで体重を感じさせない動きで。 ジェームズと婦人たち、舵取りの青年とルイズ、そしていま新たに乗り込んできた三人の少年少女たち――ラッシュ時の電車並みに人口密度の多い小型艇の人垣が、途端に分かれる。まるで風見の行く手を遮る事を恐れるように。そして“道”の終着点に“王”がいた。 「きっ、貴様……“ブイスリー”……ッッッ!?」 ジェームズが泡を食ったように目を白黒させる。彼はすでに杖を手にして立ち上がり、臨戦体勢を取っていた。万が一、この亜人が牙を剥けば、文字通り、自分は八つ裂きにされてしまうだろう。――ジェームズには、そうされるだけの心当たりがあったのだから。 だが、風見の視線は、まっすぐ彼を向いたままだ。ルイズにさえ一瞥たりとも向けられる事はなかった。 この男が一体何をする気なのか? この場にいる全員の神経は、その一点に尽きた。 が、ジェームズを前にして風見が取った行動は、ある意味、常識的な――違う意味で彼らの予想を裏切るものであった。 風見は膝を着き、作法どおり頭を垂れ、視線を落とした。 まるで宮廷貴族が国王にそうするように、自然な所作で。 数瞬、ジェームズは凝然としていたが、それでも冷静さを取り戻し、わめく。 「ぶっ、無礼者っ!! 目通りすら叶わぬ亜人の貴様が、王に誰何を致すなど――」 「我が主、ロマリア教皇・聖エイジス三十二世からの親書をお届けにあがりました」 わがあるじ……ッッッ!? ロマリア教皇……ッッッ!? ルイズの顔が歪む。いや、彼女だけではない。ジェームズと、その周囲の女性たちもだ。 「あっ、あんた何言ってのよッッ!?」 声を上げようとするルイズを、タバサが抑える。 「何すんのよタバサっ、放しなさいよっ!!」 「王の御前。許可を得ない発言は無礼」 おそらく、今この少女を黙らせようとするなら、これ以上的確な言葉はなかったであろう。激昂のあまり頬を紅潮させたルイズだが、そう言われて、なおもわめき続けられるほど血の巡りは悪くはない。しぶしぶだが、その口を閉じた。 逆に、ジェームズは憤然どころか、半ば呆然とした表情で口を開く。 「“ブイスリー”……おのれは何を言っておるのだ……!? お前の主は、この余であろうが……!?」 が、次の瞬間――ハッと何かに気付いたような素振りをすると、老人はわなわなと、今度こそ怒りに形相を歪ませる。 「貴様……亜人の分際で、余を見限るつもりか……!? 『レコン・キスタ』の国賊どもと同じく、王家の恩を忘れて、新たな飼い主に尻尾を振る気なのかッッッ!?」 だが、王の怒りをまともに喰らっても、風見は微動だにせず、反論どころか顔すら上げない。 「何とか言わぬかっ、この裏切り者めがッッッ!!」 そう言って、ジェームズが杖を振りかざした瞬間、初めて風見が動いた。 . ――といっても、彼が何をしたわけでもない。 単に顔を上げて、王に視線を向けただけだ。だが、その骨すら刺すような氷の眼差しは、ただ一瞥で痩せた老人の動きを封じた。 「きっ、貴様……ッッッ!?」 「何か、勘違いをなされておられるようですが……陛下の仰る“ブイスリー”なる者と、私は全くな別人でございます。……その親書をお読み下されば、お分かり頂けると思いますが」 「――なっ、なにぃっっ……!?」 「その“ブイスリー”なる者と面識はございませんが、彼は言うなれば、私の双子の兄弟とでも言うべき者。同じ顔と肉体を所有していても、その存在は全くの別人でございます」 そう言いながら、風見はゆっくりとルイズにも視線を送る。 よく見ろ、とで言いたげに右手の手袋を外しながら。 「うそ、でしょう……ッッッ!?」 その右手には、彼女の見慣れた文字で刻まれた、使い魔のルーンがあった。 ――ヴィンダールヴ、と記されたルーンが。 00000000000 「どういうつもりですか、大司教閣下?」 シェフィールドが硬い視線を、黒衣の男に送る。 「ウェールズを殺さぬどころか、側近に加えるですって? そんな勝手な事を誰が貴方に許したというのです?」 まるで成績が下がった子供を叱責する教師のような、冷たい声。 『レコン・キスタ』の関係者が、この光景を見れば、おそらく唖然とするだろう。そして、この女性は首領の秘書に過ぎない、という事実を疑い始めるに違いない。 ――そう。この女性は単なる秘書などではない。 『レコン・キスタ』と、その真なる黒幕とを結びつけるパイプ役。クロムウェルが振舞った莫大なる軍資金も、“虚無”と謳われる奇跡も、いや正確に言えば、その貴族連帯の理念さえも、その黒幕が与えたものに過ぎない。 神輿・傀儡と評されて憚らないクロムウェルであったが、その人形の繰り手は、世間の言うような貴族派中枢の大諸侯たちではない。無論、アルビオンの大諸侯たち本人は、そうは思っていないようではあるが。 そして、傀儡であるはずの男は、その主に叱責されてなお、切れるような笑みを、口元から失わせる事はなかった。 「ミス・シェフィールド」 クロムウェルは言った。 「一度、陛下と話をさせて頂けませんかな?」 「……ッッ!!」 シェフィールドの表情が怒りに歪む。彼女の敬愛する主は、クロムウェルごときが馴れ馴れしく口にしていい人物ではない。 「あの御方の事を気安く呼ぶなっ!!」 だが、眼前の男の反応は、彼女が知るはずのクロムウェルとは一線を画したものであった。 「貴女では話にならない」 男は臆病者であるはずだった。 僅かばかりの謀才を鼻にかけた、小賢しい男であるはずだった。 キナくさい臭いを敏感に嗅ぎつけたなら、何よりまず、身の処し方を考える男であるはずだった。 そんな男が、自分に向かって――いや、“あの御方”に向かって、こんな不遜な態度を取る。 ……シェフィールドは、このときに気付くべきだった。 自分たちが下したクロムウェルという人物に対する評価は、あるいは間違っていたのではないか、という事に。 この男は自分たちが考えていた以上に食えない男だったのではないか、という事に。 だが彼女は気付かなかった。否、気付けなかった。 「陛下ならば、ウェールズを我が側近に加える意味を御理解頂けるはずでございます」 . シェフィールドは一歩後ずさると、ふんと鼻を鳴らし、クロムウェルを睨みつける。 それが『レコン・キスタ』のためになると、この男なりに考えた結果の行動であるならば、自分は何も言うまい。この保身に長けた男が、考えもなしにそんな危険な行為をするとも思えないからだ。 「念のために訊いておきますが、大諸侯たちがその人事に納得するとお思いですか?」 「テューダー王朝の嫡子が、革命の理念を認めたのですよ? 何をいまさら若造ごときを警戒する必要がありますか?」 「ウェールズが実権を握れば、彼が王政復古を唱える可能性があるのでは?」 「ありえませんな」 「その根拠は?」 「彼が生きている限り、アルビオンの民はジェームズ陛下の失政を忘れぬでしょう。そんな中で、テューダー朝の再興を考えるほどに彼は愚劣ではありませんよ」 「ならば、ウェールズが王党派の復讐を大諸侯たちに果たそうとする可能性はない、と?」 「そんな気があれば、そもそも彼が『レコン・キスタ』に参加するはずもございませんよ。地下に潜ってゲリラ活動をする方が、ある意味よほど簡単だ」 「……」 「御納得いただけましたか?」 そう問われて、シェフィールドは顔を上げた。 「始祖の秘宝は?『風』のルビーと始祖のオルゴールは?」 そう。これだけは彼女といえど、絶対に譲れない。 始祖の秘宝を入手するのは、彼女が主から受けた、絶対の最優先命令なのだから。 だが、その事実を知らないクロムウェルは気楽な口調で答える。 「ウェールズがこちら側にいる限り、たとえ誰が入手したとしても、簡単に返還を請求できますよ。むしろ、それを宣戦の口実に使ってもいい。――どちらにしても、『レコン・キスタ』の最終目的は“聖地”の奪回ですからな。始祖の秘宝など関係ないでしょう?」 「……あの御方の命に逆らうつもりなのですか、大司教?」 シェフィールドの目が据わる。 「分からん方ですな」 だが、むしろクロムウェルは、なだめるような口調で続けた。 「王家の嫡子を折角こちらに取り込む事が出来たのですよ? 秘宝を持って逃げたのがジェームズである以上、腕ずくで回収するような真似をすれば、ウェールズの決心に水を差す結果を招きかねない。長い目で見れば、結局それは組織のためにならないと考えますが」 「言い訳ですか?」 「それとも、いますぐ始祖の秘宝を入手せねばならない理由があるのですか? 私にも聞かされていない、別の事情が?」 「図に乗るなッッッ!!」 その言い草に、さすがにシェフィールドも切れた。彼女は元来、気の長い女性ではない。 「ひっ!?」 クロムウェルは、反射的に声を上げてへたり込み、怯えた目で彼女を見上げる。 ――そうなのだ。この男は、やはりこういう男なのだ。しょせん腰抜けの小才子。王国のカリスマというべき皇太子をまんまと篭絡して図に乗ったようだが、結局のところ地金が剥き出せば、途端にこのザマだ。 シェフィールドは、むしろ安心した。 手柄に酔って調子に乗る程度の元気がなければ、むしろ自分たちの傀儡は勤まらない。だが、一瞬でも自分を苛立たせた走狗には、やはり釘を刺しておかねばなるまい。主の手を噛むような勘違いをする前に。 「秘宝の入手は『レコン・キスタ』の存在意義における最優先目的。分からんようなら、貴様の首をスゲ替えるまでだ。――それが分かる人間とな」 「……出過ぎた言葉を吐きました……申し訳ございません……!!」 ガタガタ震える黒衣の男を、虫でも見るような視線で一瞥すると、シェフィールドは踵を返した。 「この一件は、あの御方に報告させてもらう。貴様には本来、独断専行など許されてはいないということを、よぉくわきまえなさい」 「役者だな、大司教」 廊下の陰から現れたウェールズは、いまだへたり込んだままのクロムウェルに苦笑を投げかけた。 「これも仕事のうちですよ、殿下」 「ならば、いよいよ君の後継を辞退しておいてよかったと言うべきだな」 「しかし閣下、もし殿下が『レコン・キスタ』の首座に就くことを承知なされたら、閣下はその後、いかがするおつもりだったのですか?」 ウェールズの背後からワルドが顔を出す。 彼らはそうやって、廊下の隅からクロムウェルとシェフィールドの会話を窺っていたのである。 . 腕利きの“風”のメイジである彼ら二人が、その気になって気配を消せば、なまなかな者ではその存在を感知することは出来ない。彼ら以上の戦士であれば話は別だが。 「決まっているだろう子爵」 立ち上がり、ブザマにへたり込んだ尻から埃をはたきつつ、クロムウェルは笑った。 「もし、殿下が『レコン・キスタ』を引き継いでくださるならば、後顧の憂いなど何もない。どこかの田舎で庵でも結んで隠棲するさ」 本気か嘘か全く分からぬその返答に、ワルドは、ぽかんとしてしまった。 一人苦笑いを隠さぬウェールズは、 「冗談じゃない。人をこんな百鬼夜行に引っ張り出しておいて、自分は楽隠居を決め込もうなんて虫が良すぎると思わないか?」 と、楽しそうに呟いた。 艦橋にふたたび入室した三人は、給仕が淹れ直した熱い紅茶に舌鼓を打ち、思い思いにくつろいだ。 ウェールズは、先程まで座していた椅子に。クロムウェルは、王子に背を向けつつ窓から月を眺め、ワルドは、その二人を俯瞰できる位置に立ち、壁にもたれていた。 「それで殿下、段取りは手筈どおりに進んでおられますか?」 「一応、な」 クロムウェルが言う“段取り”とは、王党派の撤兵のことだ。 「『イーグル』号のパリーと、地上部隊のマーヴェリーからは、したためた書状の返書が先程届いた。王党派総員三百名、速やかにトリステインに向かう、とな。――大司教、フネの用意は?」 「地上部隊撤収用の大型船なら、すでに手配は完了してあります。砲門の取り外しに、もう少し手間がかかるようですが」 「砲門の取り外し?」 ワルドが怪訝そうな顔をしたが、ウェールズが紅茶をすすりながら答える。 「僕の決断は、いわば白旗挙げた逆賊どもから、こっちが背中を見せて逃げるという事だ。そんな命令に、血の気が多い部下たちが素直に従わない可能性があるだろう? そんな連中に貸す軍艦に、武装をそのままにしておけるものかよ」 「なるほど……。ならば『イーグル』号が、殿下を取り戻そうと攻撃してくる可能性もありますな」 「いや、それはない」 斬り捨てるようにウェールズが言う。 「兵どもならば知らず、パリーならば分かっている。この交渉のキモは、僕が人質になる危険を顧みず、クロムウェルとの直談判で撤収の時間を稼ぐ、という点にある事をな。僕の努力を不意にするような真似を、パリーは絶対にしない」 その言葉に、クロムウェルが口を挟む。 「王党派の中核たる三百人が生き延びている限り、王朝再興は可能であるということですか。ならばこそ、一足先にトリステインで殿下の帰還を待て、と?」 「希望を持たせてやらない限り、奴らがそんな命に従うわけがないからな」 抜け抜けと言うウェールズだが、さすがに背中からは、そんな家臣たちを裏切る後ろめたさを漂わせているのが、ワルドには見えた。 王党派の兵団がトリステインへの亡命を了承したのは、この王子の身柄を一番に考えての事だ。そうでなければ、こんな敵前逃亡に等しい屈辱を、彼らが容易に受諾するわけがない。――しかし、もはやウェールズに、彼らのもとに戻る意思はない。 ならば、自分がやるべき事は決まっている。――ワルドは口を開いた。 「殿下、しばしの間、わたしにトリステインに帰国する事をお許し願いたい」 ウェールズとクロムウェルは、思い詰めた表情を浮かべるワルドを硬い視線で見つめる。 「……僕のフォローをしてくれるつもりなのか?」 「殿下を待つ者たちには、殿下が戻らぬ理由が必要になりましょう」 「礼を言う、ワルド」 そう言うと、ウェールズは立ち上がり、悪戯っぽい眼差しをクロムウェルに向けた。 「そうだな。なら――『ウェールズはクロムウェルに一度殺され、“虚無”の秘術で甦り、彼の側近に加えられた』ということにでもしておいて貰おうか」 . 「なっ!?」 さすがにワルドとクロムウェルの表情が凍りつく。 「僕がすでに死んでいる、ということになれば王党派の残党も士気が上がるまいし、弔い合戦を謳う連中にとっても、僕が大司教の側近となっている事実は、やはり戦意を削ぐだろう」 こともなげにウェールズは言うのを、クロムウェルは呆然となって見ていた。 黒衣の首領が行使する“虚無”の噂は、いまだ『レコン・キスタ』の上層部にしか知られていない軍事機密なのだ。 何故それを知っていると訊きたいのをこらえ、ワルドは口元を歪めた。 この情報を知っているということは、ウェールズは『レコン・キスタ』内部に、相当の諜報網を布いているという事になる。じりじりと敗けを装って、ニューカッスルに撤退しながら、その間に、貴族派内部にこれだけの協力者を手なづけていたというのか……? ならば、王党派があれほどの敗北を重ねたのは、何故? 貴族派の裏をかくことなど当然のように可能だったはずだ。 ウェールズは自嘲するように言う。 「納得いったか? 貴様らの連戦連勝は、ひとえに父上のおかげだということが」 ならば、王軍の指揮をジェームズではなくウェールズが執っていたなら……? ――大司教、貴公の首は、とっくの昔に胴から離れ離れになっていただろうよ。 さすがにウェールズは、その一言を口にしなかったが、言いたいことは充分に伝わった。 クロムウェルは、背中に冷たい汗を感じながら言う。 「……恐ろしいお方だ、あなたは。昼行灯を気取っているのはお互い様だと思っていましたが、やはり殿下は――あらゆる面で、わたしごときの敵う相手ではないようですな」 だが、その王子はクロムウェルの言葉を鼻で笑うと、うそぶくように呟いた。 「ところで、――先程の爆発は一体何だったのであろうな?」 小型艇は、そのまま竜に引かせて、ラ・ロシェールに向かう事になった。いま乗船している全ての人数を、そのままドラゴンの背に載せてもいいが、どう考えても定員オーバーだったからだ。 無論、すし詰め状態の船内に、大人しく全員が乗っているわけでもない。 魔法学院の生徒たちと、風見志郎。そして、好奇心からドラゴンの背に乗ってみたいという貴婦人や女官たち数人を、二匹の風竜に分乗させ、そのままロープで竜籠のようにフネを引っ張る。 それらの竜は、シルフィードのような幼生とは違い、完全な成竜だったので、四・五人が同時に乗っても、落ちるようなことは無かった。 「そういやアンタたち、ここに何しに来たの?」 風見志郎が手綱を握るドラゴンの背で、ルイズが思い出したように口を開いた。 問われたキュルケとギーシュは一瞬、ぽかんとなったが、やがて真っ赤になって怒り出した。 「何しに来たって……なによ、その言い草っっ!! アンタのために来てあげたに決まってるじゃないのっっ!!」 「わたしの、ため……?」 その台詞に、ルイズが逆に呆然となる。 (だって、わたしとあんたたちって、そんなに仲良くなかったでしょう?) そう言いたげなルイズに、ビシッと指を突きつけたキュルケは、 「ここまで来るために、あたしたちがどれだけ苦労したと思ってるのっっ!? 何リーグも穴ボコの中を進んだり、オーク鬼の一個小隊に襲われたり、シルフィードの背中にいるときに大砲でバカスカ撃たれまくったり――とにかく何回死ぬかと思ったか分からないわっ!!」 「……そう、なの……?」 ルイズがおそるおそる、隣にいるギーシュを窺う。 だが、ギーシュも鼻白んだ様子で、冷たい言葉を返す。 「おまけに、助けにきてやった当の本人には『何しに来たの?』とか言われちゃうしな」 「なっ、なによっ! 助けてくれなんて、いつわたしが頼んだのよっ!!」 . ルイズからすれば、その言葉は無理もなかったかもしれない。援護を依頼しなかったのは事実だし、何より、級友たちに再会したときには、事態はあらかた終わってしまっていたのだから。だが、キュルケやギーシュたちに、それを納得しろというのは、さすがに無理だ。 「ああああああっ!! そうよねっ!! 大体なんであたしが、わざわざアルビオンくんだりまで来て、こんな目に遭わなきゃいけないのよっ!? これはもう、貸しよ!! 壮絶なまでに大きい貸し!! いずれ利子付きでキッチリ取り立てるからねっ!!」 「そうだよ、この貸しは、明日中にでも物理的に返してもらうよっ!! 明日、僕はまた朝イチでアルビオンにとんぼ返りしなきゃいけないんだからなっ!! 往復のチケット代、立て替えてもらうっ!!」 さすがにギーシュのその台詞は、ルイズのみならずキュルケもきょとんとした。 「え、とんぼ返りって、――何で?」 だが、ギーシュはキュルケのその反応に、一際大きな声で吠える。 「何でって――何言ってるんだよ君はっ!! 僕の可愛いヴェルダンデを、あんな浮島に置き去りにする気かァッッ!!」 つかみ掛からんばかりに激昂するギーシュを、キュルケが「ごめんごめん、忘れてたわけじゃないのよ」と、いなしながら、そっぽを向く。そんな赤毛の少女に、金髪の少年はますます憤然と怒鳴り散らす。 ――その様子を見ながら、ルイズはいつの間にか、胸の内に温かいものが込み上げてくるのを感じた。 理由は分からない。でも、この二人――いや、向こうの竜で手綱を握っているタバサを含めて、三人は――頼んだわけでもないのに、彼らは、わたしを助けに来てくれたのだ。 「ありがとう……」 「あ……まあ、分かればいいのよ……」 以前の彼女からは考えられもしない、そのしおらしい一言に、掴み合いをしていた二人は、逆に照れたように動きを止めた。 そして、キュルケが思い出したように口を開く。 「――そうよ、使い魔といえば、確かカザミも消息不明になっているはずよね」 「カザミ、が――!?」 とっさにルイズは、鞍上にいる黒革の上下を纏った男に目をやるが、 「勿論、あっちじゃないわ。あなたも知ってるアイツの方よ」 「カザミが、どうしたの!?」 「大砲に撃たれたんだよ。僕らがアルビオンに上陸する時にさ」 ギーシュが言葉を引き継いだ。 「――ま、アイツの事だから、死んじゃあいないとは思うけどね」 キュルケもそう言いながら、心配そうな顔をする。 あのカザミが……わたしのために……アルビオンに……!? 信じられないけど、もし本当なら……やっぱりわたしを主と認めて、心配してくれたの……? その思いは、彼の心配よりもむしろ嬉しさの方が上回った。 心配といっても、ルイズとキュルケは、カメバズーカ相手に大砲を肉体で受け止めていた彼を見ている。あの改造人間が死ぬワケがない。――それはルイズの実感でもあった。 「ギーシュ、往復のチケット代、わたしが出すわ」 「え……?」 だが、不安にならないと言えば、さすがにそれは嘘に近い。 そういえば忘れていたが、ワルドもまたアルビオンにまだいるはずだ。彼に頼めば風見の捜索を手伝ってくれるかも知れない。 「わたしもアルビオンに戻るわ。明日の朝一番でね」 そしてキュルケも、そんなルイズを見て、 「……仕方ないわね。ならあたしも付き合ってあげるわ……。毒を喰らわばって言うしね」 「――で、ルイズ、結局サイトはどうしたんだい? 会ったんだろ?」 . 「……え?」 ギーシュの一言で、ルイズは凍りついた。 ――文字通り、魂の底の底まで。 だが、空気の読めない金髪の少年は、くつろいだ調子で言葉を続ける。 「『え?』じゃないよ。僕らより一歩先にドラゴンに乗って、君のところへ来ただろう? 彼の姿は見えないけど、どうしたんだい?」 サイトが、……………いた……………ッッッ!?? サイトが、……………アルビオンに……………来ていた……………ッッッッ!!? 「でも、ここにいないって事は、一足先にラ・ロシェールに向かわせたのかい?」 じゃあ、あれはやっぱり……あのドラゴンに乗っていたのは、やっぱり……!? あれが、……あれがサイトだったの……ッッッッ!? だったら、だったらっ、――サイトをわたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしが、わたしがッッッッ!! 「ルイズ? どうしたの? 調子悪いの?」 さすがにキュルケは少女の様子の変化を感じたらしい。 それも当然だ。もはやルイズの心臓はパンク直前まで脈打ち、その脳は過呼吸と酸欠で、眼球が飛び出さんばかりになってしまっていたのだから。 だが、無理もないだろう。いま、彼女の脳裡を駆け巡っているのは、ルイズが最も認めたくなかった現実。直視したくなかった現実。知りたくなかった現実。そして、もはやどうしようもない現実……。 ルイズは、自分の眼前が、ぐにゃりと音を立てて捻じ曲がるのを感じた。 わたしがサイトを、こ ろ し て――しまったっッッッッッッ???? 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ……………!!!!」 少女と同じドラゴンに乗っていた風見と二人の級友、小型艇に座乗していたジェームズたち、そしてもう一匹の風竜に乗っていたタバサや貴婦人たち――早い話が、この場にいた全員が、突如夜空に轟いたその悲鳴に、思わず振り向いた。 人間が、あるいはこれほどまでに悲痛な叫びをあげられるのか、と疑わせるほどの絶叫。 そして、少女は、――そのまま目を閉じる事もなく意識を失った。 前ページ次ページもう一人の『左手』
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6089.html
前ページ/ゼロの使い/次ページ 魔力を辿って行った先にはレコン・キスタの本拠地と思われる建物が建っていた。それが軍港施設ロサイスであることを異界の住人である彼が知る術はなかった。 幸運にも、本陣が攻め込まれるなどとは思ってなかったらしく、守備兵は全てまともな生き物だった。 本陣だけあって、かなり腕の立つものばかり、蟻の様な数で押し寄せたが、古代呪文とマホカンタの前に虚しく散っていくだけだった。 魔力を辿った先にある部屋の前に着くと、トリステインに攻めてきた連中と同じ魔力を漂わせたオーガが突っ込んできた。 その棍棒の一撃を交わしたメディルは、メラゾーマとマヒャドをそれぞれ発動させ胸の前でそれを合成した。 合成された二つの呪文は光の弓となり、第二撃を加えるべく向かってきたオーガはその矢に飲まれ、壁ごと消滅した。 先ほどの連中とは違いそのオーガは再生しなかった。 極大消滅呪文・メドローア。古代の大魔道師が編み出したとされるこの呪文はあらゆる物質を消滅させる最強の魔力を発射する。 メディルはこの術の性質を利用し、死者を操る魔力ごと消滅させたのだ。 今攻め込んでいる連中にも無論有効だが、この術も超高密度魔法言語ほどでないとはいえ、かなり消耗する。 大軍に向けて使うには適さなかった。 「君がメディルの使いかね。噂は聞いているよ。」 部屋の中では、総大将と思しき細い男がこちらを見ていた。 メディルは、ただの男に過ぎない筈の彼に言いようの無いものを感じた。 「貴様がここの・・・」 「いかにも。余がレコン・キスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルだ。」 高らかに自己紹介する彼の指に嵌められたものからは、メディルが追っていた魔力の糸が伸びていた。 「その指輪が不死身の秘密か。」 「いかにも。グレートライドンが呼び出した死者に、このアンドバリの指輪の魔力を与え生前の姿と不死性を与えた。 すべては我らがレコン・キスタの守護神が・・・」 悦に浸って喋り続ける、総大将の台詞をメディルが遮った。 「守護神だと、笑わせる。奴は私の世界にいた『死神貴族』と言う魔物に酷似していた。 貴様の背後にいるのは、異世界から来た私と同様の魔族か魔物。違うか?」 メディルの問いに、彼はクククと笑いながら答えた。 「その通り。あの方は神じゃない。恐ろしく邪悪なオーラを漂わせていたからね。 だが、神にも勝る力を持っておられる。だから余はあの方の下、この組織を興し、この世界を丸ごとあの方に献上しようとしたのだ。 この指輪はあの方が水の精霊から奪った物を改良したと言っていた。」 「そこまで話すということは、覚悟は出来たようだな。」 メディルの右手の指に灯った五つの炎を見たクロムウェルは手にした指輪を飲み込んだ。 改良されたためか、指輪の効果は外しただけでは消えぬらしく、彼の口からはトリステインに向けて魔力の糸が伸びている。 「ああ。余自ら手を汚す覚悟をね。」 「ほざくな。五指爆炎弾!」 放たれた5発のメラゾーマが彼を焼き尽くした――かに思えた。 だが、どういう訳か呪文は彼に命中したと思った瞬間、踵を返し、メディルに向かってきた。 咄嗟にマヒャドで相殺するが、判断が遅れればかなりの痛手を負っていた。 何が起こったのかメディルは把握できなかった。マホカンタがかかっているならば 並みの者はともかく彼ならば一発で見切る事が出来、他の呪文が発動したようにも見えなかった。 やがて、クロムウェルが不敵な笑みを浮かべ、話し始めた。 「どうやって呪文を返したか疑問に思っているようだから教えてあげよう。 余は何の魔法も使っていない。ただそういう体質だっただけの事さ。このような・・・」 突然、目の前の男の肉体がメキメキという音と共に大きくなっていき、見る見るうちに面影一つ残らぬ姿に変わり果てた。 そいつは青白い鱗に全身を覆われ、両手から30サントはある長い爪を生やし、瞳孔の無い血の様な真紅の眼を持つ 3メイル程の身長の蜥蜴と人間を混ぜたような魔物だった。 ここへ来て、ようやくメディルは最初に感じた奇妙な感覚の真実を悟った。 「魔法を弾き返す鱗を持ち合わせた崇高な存在に生まれ変わっていただけの事さ。 我らが守護神であるあの方が授けてくれた『進化の秘法』によってな!!」 言い終わる前に、クロムウェルはその巨体からは想像出来ぬほどの速度でメディルに爪を振り下ろした。 間一髪でかわすが、爪が下ろされた瞬間、散弾銃のように無造作にばら撒かれた無数の三日月形の風の刃の一つが左肩口を掠めた。 「どうだね?我が風刃の爪の味は。避け続けられるなら、やってみろ。」 第2、第3の爪がメディルに襲い掛かる。爪そのものの回避は容易だったが、軌道の予測が不可能な風の刃が少しずつ、だが確実に彼の体を傷つけていた。 だが、敵はあまり気の長いほうではないらしく、爪では簡単に死なぬと判断したのか、口を大きく開け、全身を震わせ冷たく輝く息を吐いた。 咄嗟にフバーハを唱えて身を守るが、そうしなければ銀世界と化した部屋の風景にこの上なく溶け込んでいたであろう。 「どうだね。君は余に傷一つ負わすことが出来ない。唯一、不死の兵を殺せる君がこの場にいて、私を殺せないということはトリステインの敗北が確定したということだ。 だが、君ほどの男をここで殺すのは惜しい。どうだ、余の・・・」 「笑わせるな。」 「そうか・・・残念だ。」 「何を勘違いしている?まだトリステインの敗北は二つの理由で決まっていない。」 「何・・・!?む・・・!?」 クロムウェルは体内のアンドバリの指輪を通じて異変を感じ取った。 死なないはずの兵の数が減っている。 化け物がメディルを睨み付けて言い放った。 「何をした・・・?」 「私は何もしてない。やったのは・・・私の主だ。」 「いっそ死んだ方がマシだわ・・・」 何本目か数えるのも止めた魔法薬を飲み干し、ルイズがぼやいた。 彼女は虚無の爆発を連発して辛うじて意識を保っている状態だった。それでもなお、海の中からは続々と敵軍が出てきたが。 「命を司るという虚無の力なら不浄の命である彼らを滅ぼせるかもしれない。」と敵陣に赴く前、使い魔が言っていた。 その言葉通り、爆発を僅かでも受けた敵兵は人も亜人も竜も、音も無くその場に崩れ落ちていった。 威力も想像以上で、一発撃てば数え切れぬほどの兵を滅ぼすことが出来た。 虚無特有の長い詠唱時間はこの期に及んでも逃げ出さぬ真の軍人達とメディルに化けた10体のモシャスナイトがその身を擲って時間を稼ぎ、 本来なら一発目で尽きたであろう精神力は気絶する前に使い魔から分け与えられた魔法薬で回復させる。 回復中はルイズに化けた残り90のモシャスナイトが一体ずつ爆発を唱え、魔力が尽きれば本来の姿に戻って軍人達と共に詠唱時間を稼いだ。 正直彼女の身体的・肉体的疲労は当の昔に限界を遥かに超えていた。 それでもなお、立って呪文を唱えられるのは貴族としての誇り、 ゼロと呼ばれ続けた自分が初めて本物の貴族らしく働いている事への喜び等もあるが、 最大の理由は自軍の兵と共に詠唱の時間を稼ぐ無二の親友とここまで導いてくれた使い魔に報いるためであった。 「こんな大仕事私に押し付けて・・・なんて言ってる場合じゃないわね。」 使い魔への愚痴を止めて、ルイズは再び詠唱に入った。 「と言うわけだ。」 「ぐ・・・」 クロムウェルが奥歯を噛み締めた。 レコン・キスタの兵はグレートライドンが呼び寄せた亡者を除けば全員、虚無と偽ってきたアンドバリの指輪の力で集めたものだ。 偽りの虚無が本物の虚無に滅ぼされるという皮肉な状況に、さしもの彼も不快感を顔に出さずにいられなかった。 「そして、もう一つの理由。それは―」 メディルは言った。まっすぐ、目の前の魔法を跳ね返す化け物に向かって。 「貴様を殺す算段が今ついたからだ。」 前ページ/ゼロの使い/次ページ
https://w.atwiki.jp/bato/pages/35.html
クラス 皇子 種族 ルーセント人(貴族) 性質 悩める者 年齢 24 身長 182cm 二つ名 「英才」「指揮者」 表示色 バト未登場 外見 蒼髪赤目。眼鏡着用。(英)トラッド的な装い。 魔力量 600lt / 4,000lx ルーセント古皇国の第二(一)皇子。(出奔した第一皇子を除くと、第一皇子。) 現皇王セベダイト・ジル・ジェム・ルーセントと、第二王妃エルザ・マルタ・レコンの間に生まれる。ルーセント皇族には珍しい知性派であり、現在はアングリア地下連邦有数のビジネススクールに留学中。 性格もルーセントには珍しく、冷静で、悲観主義的。兄弟の中で間違いなく最も思慮深く、悪く得いえば、後ろ向き。また、留学中ということから、現在も戦闘には積極的に参加しておらず、その為に国内では兄弟最弱とも噂されている。 戦闘には、動作の一つ一つで術式を構成する「マルタ式」魔術を用いる。その為に中、遠距離での戦闘を得意とし、自ら剣をふるって突撃するという典型的なルーセント貴族のスタイルではない。また、パペットを用いた集団戦闘も得意とする。生きた人間を指揮しても一定の成果を出せると思われているが、実戦経験はない。 竜気量は4000lxと、標準的なルーセント戦士の十倍以上。しかし、それでも弟のヨハネウス・ジル・ヴォークネス・ルーセントの五分の一以下であり、兄弟達の中では最低である。その為、竜気を用いて戦っても十分強い筈だが、どちらかといえば魔術を用いることを好んでいる。 強い者が支配する、というルーセントの掟に少年時代から違和感を抱き続けている。しかし、そう思うのは、単に自分が弱いからではないかと自己嫌悪にしばしば陥ってきた。その自己嫌悪から抜け出す為にも、ルーセント外の思想や制度の勉強に力を入れ、しばしば軟弱者扱いされている。だが、天候に左右される農業の脆弱性の対策として、高品質食品や伝統工芸品の輸出を行い、外貨を蓄積し、運用する国家ファンドを立ち上げるなど、積極的に皇国の改革に取り組んできた。数年前には不作の折に外貨積み立てを崩して食料の輸入を行い、飢饉を防ぐことに成功している。 眼鏡を着用しているのは、レコン家の特徴である赤目を隠す為。視力自体は良好である。 他キャラとの関係 モレク - 先祖 セベダイト・ジル・ジェム・ルーセント - 父(尊敬) エルザ・マルタ・レコン - 母(超複雑) グレン・ジル・ヴォークネス・ルーセント - 兄(侮蔑と尊敬) ティルス・イリ・レコン・ルーセント - 妹(心配) ルーセント・ジル・ヴォークネス・ルーセント - 弟(劣等感) ジェリコ・イリ・レコン・ルーセント - 妹(心配) ルカス・ジル・ヴォークネス・ルーセント - 弟(可愛い弟) 後、色々あった気がするけれど、資料消失につき割愛(…。